クロスオーバーエピソード。アレックスの部分がよかった
4種のDC原作ドラマ合同エピソード"Crisis on Earth-X"の出だし部分となる回。アレックス主体で大変面白かったです。ただ、"Crisis of Earth-X"全体はやや煩雑で、オチもちょっと古いと思いました。
ますます続くアレックスの旅
"Crisis on Earth-X"はDCコミックスのスーパーヒーローを主人公とするドラマ『スーパーガール』、『フラッシュ』、『アロー』、『レジェンド・オブ・トゥモロー』の4作品をクロスオーバーさせた、全4話のスペシャルエピソードです。スーパーヒーローたちのいる世界に、ヒットラーが第二次世界大戦で勝利したパラレルワールド"Earth-X"からナチス軍が攻め込み、撃退されるまでが描かれます。
『スーパーガール』S3E8は、この"Crisis on Earth-X"のスタート地点となる回。元婚約者マギー(フロリアナ・リマ)との破局をまだひきずっているアレックス(カイラー・リー)は義妹のカーラ/スーパーガール(メリッサ・ブノワ)とともに『フラッシュ』の主人公バリー(グラント・ガスティン)の結婚式におもむき、式前夜のリハーサルディナーでさんざんに飲んだくれます。そのうち彼女は『レジェンド・オブ・トゥモロー』のバイセクシュアルキャラ、サラ・ランス(ケイティ・ロッツ)と意気投合し、そして。
サラとベッドをともにします。
つまりレズビアンとバイセクシュアル女性とのワンナイト・スタンドをサラッと出してきたんですよこのドラマ。翌朝目を覚まして動転のあまりベッドから落ちるアレックスのアホかわいさと、終始しれっとしているサラ姐さんとの対比がおもしろいし、こういう経験値の差を描いてから改めてサラにマギーに関する助言をさせるという流れもよかった。まだ駆け出しゲイであるアレックスが自分自身を知っていく旅のワンシーンとしても、マギーとの別れに自分なりの折り合いをつけるプロセスとしても、うまいやり方だったと思います。
それに何より、この2人が勢いで寝てしまう展開に、いかにもそのへんにありそうな現実っぽさがあるところがよかった。あれはヘテロ物ならSATCや、初期の岡崎京子漫画が描いてそうなリアルさだと思います。アレックスにとってはこういう経験は初めてだったようですが、それはおそらく彼女がこれまでの人生の大半を自分はヘテロだと思い込んで過ごしていたからであって、いろいろあって自分の欲望を把握した今、今回カーラが笑いながら言う(ここの姉妹トークもコミカルで最高)ところの単なる「健康なシングル女性」になったということなのだと思いました。自覚やカミングアウトが遅かった同性愛者は否が応でも実年齢とズレたところでもう一度思春期をやり直す(そしていろいろやらかしながら性的指向を模索する)はめになるものですし、アレックスは今その段階にあるってことなんじゃないかな。『スーパーガール』エグゼクティブ・プロデューサーのグレッグ・バーランティ(Greg Berlanti)が第3シーズンでアレックスのロマンティック・ライフをさらに探求したいと言っていたのはこういうことだったのかと、ひとり納得しました。
ちなみにサラとアレックスの組み合わせは色気もあればスラップスティックの要素もあり、ふたりで組んで敵をバッタバッタとなぎ倒す(そして十年来のコンビであるかのようにハイファイブを決める)動きのかっこよさも目に快かったです。またこのふたりが組んで活躍する回があると嬉しいな。別に無理やり恋人同士にしなくていいから。
その他"Crisis on Earth-X"全体について
ナチズムや弱者排除に反対するという全体のテーマそのものはいいんだけど、登場キャラが多すぎて煩雑な印象を受けました。普段『スーパーガール』しか見ていない自分としては、「何か突然かっこよく登場した人がいるけど誰やこれ」「感動的な場面らしいんだけど誰やこれ」「人が死にそうで大変なのはわかるんだけど誰やこれ」の連続で、ちとつらかったです。
最後の落としどころが単なる古典的な結婚礼賛に見えてしまうところも退屈。そもそもそこまでの過程で、オリバー/アロー(スティーヴン・アメル)が求婚に応じてくれない恋人のことを「自分と同じように愛してくれているのなら結婚したいと思うはず」とかなんとか言ってる場面が出てくるのも嫌でした。あれじゃまるで、セックスをしたがらないガールフレンドに「愛がないのか」とにじりよるクズ男みたいだし、仮にも多様性を売りにしているはずのドラマ(『アロー』)で結婚を愛の踏み絵にするのはどうなのよ。
しかしながら、ナチスの人種差別やホモフォビアにキャラたちが正面切ってノーをつきつける名場面ふたつを、スーパーパワーを持たない人間の女性に担当させたところはすばらしいと思いました。そのうちのひとり、フェリシティ・スモーク(エミリー・ベット・リカーズ)はユダヤ系のIT技術者で、ホロコーストを生き延びた祖父母を持つ人。彼女がクリプトナイトで弱らされたスーパーガールをかばって、生身の身体で銃口の前に立ちはだかるシーンは強烈です。もうひとりは前述のサラ・ランスで、彼女は敵の策略でナチスの収容所に入れられた際、ナチス高官から「なぜおまえのような金髪碧眼の北欧系がこんなところに」と質問されたとき、昂然と「わたしは男が好きで、女も好きだから」と答えています。その前に囚人服のピンクの三角形マークの説明が少しあり、サラとアレックスが不安げに目を見かわす場面があるのがポイント。これらの場面を見て、要するにこのクロスオーバーエピソードは空も飛べなければ目からビームも出せない個々人が勇気を出して悪に立ち向かうことの大切さを訴える話なんだと思いました。そこはすごく好き。
最後に、ゲストキャラのゲイのスーパーヒーロー、ザ・レイ/レイ・テリル(ラッセル・トーヴィー)について。このキャラはゲイ・テーマを直接的に強く訴えることはしないけれども、恋人のレオ・スナート(ウェントワース・ミラー)との会話やキスがたいへんスウィートでよかったです。考えてみればこのクロスオーバーエピソードには女同士、男同士、異性同士のキスシーンが一通り登場していて、そのへんはだいぶリベラルだったと思います。
余談
- ミュージカルエピソードではないのに、カーラが一曲まるまる歌う場面があります。すばらしいファンサービス。
- モン=エル(クリス・ウッズ)が一瞬しか出てこない上、前回と同じクソ野郎路線のままなので、ちょっとほっとしました。これで少なくとも、「クロスオーバーエピソードが終わったとたん、何ごともなくよりを戻させる」みたいな展開はなさそう。
まとめ
主人公のカーラをさしおいてアレックスのロマンティック・ライフの追及にたっぷり尺が割かれるという、うれしい誤算の回でした。アレックスとサラの交流はセクシーでユーモラスで、レズビアンの自己探求の旅のひとコマとしてもよく描けていたと思います。ただ、"Crisis of Earth-X"全体は長くて(43分×4話で、計176分もあるのよ!)、ややこしくて、「誰やこれ」の連続なので、見ていて疲れました。反レイシズムや反ホモフォビアというテーマには力強く切り込んでいたし、名場面もたくさんあるんだけど、もうすこし登場人物を絞ってオチにも新しさを出してほしかったところ。
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