石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

満を持してレイン登場―ドラマ『スーパーガール』3x09感想

ポスター/スチール写真 A4 パターン15 スーパーガール 光沢プリント

ヒールだけどかっこいいぞレイン

レイン(別名ワールドキラー)が覚醒し、地球の「浄化」を開始する回。レインの強さやコスチュームがかっこよく、スーパーガールは食われ気味です。モン=エルは相変わらずクソだけど、相変わらずヘテロロマンス描写がずさんなところがいただけない感じ。

ステゴロ最強ヴィラン登場

レイン(オデット・アナブル)はまだ多神教が信じられていた先史時代のクリプトン星で生み出された生物兵器。暗黒神とも悪魔とも言われ、現代の一神教のクリプトン星人からは迷信として存在を否定されていた存在です。クリプトン星の崩壊時に赤ちゃんの姿で地球に到達し、地球人サム・アリアスとして自分の正体を知らずに育っていた彼女は、ついに今回レインとして覚醒。レインはジキルにとってのハイドのようにサムの人格と入れ替わり、「混沌と罪」に満ちたこの世界を浄化するとして、悪人とみなした人々を一方的に殺し始めます。カーラ/スーパーガール(メリッサ・ブノワ)はこれをテロ("terrorizing people")として非難。そこから両者一歩も退かぬ拳と拳のどつきあいになり、スーパーマンより強いはずのカーラが流血の大苦戦をし……

異教のものが悪魔とされるところや、覚醒したレインがさっそく天から火を降らせて自分のしるしを地に刻むあたりなどはかなりキリスト教を意識した描写になっていると思いました。ただし、レイン本人の口から悪魔ではないと言わせているところや、彼女の起源である生命発祥の大陸「ユーリカ("Urrica")」がアフリカ大陸の象徴っぽいところからして、レインはただのヴィランというより、主流文化に下位のものとして抑圧されてきたものからの逆襲を暗示する存在であるように思えます。また、地球文化のもとに育ち「スーパーパワーを善いことに使いたい」と願うサムと、自分のルーツである旧クリプトン人の価値観に従おうとするレインとの対立は、現代社会の移民が抱える問題を象徴しているふしもあると思いました。だとすると今後、シーズン2の「メイク・ダクサム・グレイト・アゲイン」に顕著だったトランプ批判をさらに一歩進めたドラマが展開されるのかも。

興味深いのが、レインが今のところS3E1に一瞬だけ出てきた妖怪人間ベラ風の姿ではなく、一種のダークヒーローめいたいでたちのキャラとして描かれているところ。彼女が身につけている黒基調のスーツはスーパーガールやスーパーマンのある意味能天気な星条旗色コスチュームよりよっぽどスタイリッシュですし、顔の上半分を隠している仮面もクール。カーラとの壮絶な殴り合いのシーンにも、ほどよく季節ネタのユーモアが配されたり(まるでコメディー映画『クレイジー・パーティー(原題"Office Christmas Party")』の一場面みたいでした)していて、画面が残酷になりすぎないような工夫があると思いました。今後のふくらませ方が楽しみなキャラだと思います。

相変わらずヘテロロマンス描写があかん

モン=エル(クリス・ウッド)は人目もはばからずイムラ(エイミー・ジャクソン)とイチャコライチャコラしている一方、それを見て距離をとろうとするカーラにしつこくつきまとって弁解のことばを聞かせようとしたりしており、少しも誠意があるようには見えません。この男、単にカーラから「許す」とか「気にしていない」とかいう言質を引き出して自分がラクになりたいだけなのでは。つまり以前と同じく、カーラの尊厳や心の傷については何ひとつ考えていないのでは。

『スーパーガール』のライターズルームが、モン=エルのクソ男ぶりの演出として上記の展開を書いたのならあっぱれだと思います。ただひとつ不安なのは、このドラマは異性同士の恋愛を描くのがそれはそれは下手で、今回もレナ・ルーサー(ケイティ・マクグラス)とジェイムズ・オルセン(メカッド・ブルックス)を意味不明なやり方でくっつけたりしているということ。このふたりは今回キスするのですが、そこに至るまでのストーリーラインがほとんど存在しないため、シナリオ陣は男女カップルの成立にあたって「ハムスターを2匹箱の中に入れておいたら勝手に交尾し始めました」ぐらいの説明しかする気がないのだなと思いました。言っとくけど実際にはハムスターですら相性やタイミングってもんがあるから、そこまで簡単ではないのよ。いきなり同じ箱に入れたら、死に至る喧嘩をすることだってあるのよ。

異性愛者を齧歯類よりプリミティブな存在としてとらえているドラマなら、今回のモン=エルのそらぞらしい弁解を素で「モン=エルのやさしさを表すシーン」のつもりで撮っている可能性も否定しきれず、今後の展開も油断ならんと思います。モン=エルが現在の地球を離れていた間の行動について、コミック版の設定を改変してまでちやほや褒め称えられているところも気になるしねー……。結局今シーズンも白パン問題(白人異性愛者男性のモン=エルがストーリー上甘やかされ、自動的に何でも手にしてしまうという問題)に振り回されるのかと思うと、ちょっと憂鬱。

その他

ホール&オーツや『スター・ウォーズ』など、ポップカルチャーへの言及が楽しい回でした。ああいう笑いで話に緩急をつけるのはいいね。もうモン=エルの登場シーンを全部カットして、その分毎回ウィン(ジェレミー・ジョーダン)にオタクトークをさせてくれればいいのに。

まとめ

レインという魅力的なヴィランの登場のおかげで、全体的にはたいへん面白い回でした。が、ヘテロロマンスの描き方が相変わらずずさんなところが気になります。2018年1月からのシーズン3後半で、もう少しシナリオを練り直してくれるといいんだけど。