石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

スカジョがトランスジェンダー役に→トランス女優らから批判→トランス女優に死の脅迫

スカーレット・ヨハンソンポスター33x48cm

スカーレット・ジョハンソン(Scarlett Johansson。姓はヨハンソンとも)が新作映画『Rub & Tug(原題)』でトランス男性の役にキャスティングされ、トランスジェンダーの女優らから批判が殺到。批判したひとり、トレイス・リセット(Trace Lysette)が死の脅迫を受けるという騒ぎになっています。

詳細は以下。

Trace Lysette gets death threats after criticising Scarlett Johansson for taking transgender role · PinkNews

ことの起こりはThe Hollywood Reporterが2018年7月2日、ジョハンソンがルパート・サンダース(Rupert Sanders)監督の新作映画『Rub & Tug』で、実在のトランスジェンダー男性Dante 'Tex' Gill の役を演じると報じたことにあります。サンダース監督は『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017年)で原作ではアジア人女性という設定だった主役をスカーレット・ジョハンソンにやらせ、ホワイトウォッシングだとして批判を受けていた人。つまり、同じ組み合わせのペアが、またしてもマイノリティの役をマジョリティの役者が持っていくというかたちで映画を撮るということになります。

トランスジェンダーの役をシスジェンダーの役者に演じさせることについては、以前よりずっとトランスジェンダーのコミュニティから批判の声が上げられてきています。代表的なのがトランスの女優/脚本家/プロデューサー/アクティヴィストのジェン・リチャーズ(Jen Richards)による批判で、詳しくは以下のエントリと、その中に貼ってある動画をごらんください。

ごく簡単にまとめると、こういうキャスティングは、

  1. トランス女性は「本当は」男なのだ(あるいはトランス男性は『本当は』女なのだ)という偏見を煽り、ひいてはそれがトランスジェンダーの人々への暴力を助長する
  2. トランスジェンダーの役者の仕事を奪う

という点が問題だと言われているわけです。上記リンク先を読まずに、あるいは読んでも「でも演技力が」「知名度が」などと口走りたくなった人のために、ジェン・リチャーズが今回のことについてTwitterで何と言ってるかも紹介しときますね。

訳:

ああああ、「演技力が必要なんだよ!」 はいはいわかった! うわー。こっちは周縁に追いやられた人びとを組織的に排除することについて話し合ってるつもりだったんだけどね。そのような洞察とニュアンスを、ついに明らかにしてくれてありがとう。この問題を解決するのにこんなに長年費やしてきて、それが無駄になっているだなんて信じられない!

OHHH, “It’s called acting”! NOW I get it! Wow. Here I was thinking we were talking about the systemic exclusion of marginalized people. Thank you all for finally clarifying the issue with such insight & nuance. I can’t believe we’ve wasted so many years working on this!

わたしは生後6か月で両親と一緒に初舞台を踏んでる。40年間役者をやってる。シェイクスピアを研究した。CBSとFXとTBSとCMTとShowtimeとFocus FeaturesとHBOで仕事をしてきた。ゴッサム・インディペンデント映画賞とピーボディ―賞を獲って、エミー賞にノミネートされた。「演技力が必要なんだよ!」だって? くそくらえ。

I was first on stage with my parents at six months. I’ve been acting for 40 years. I studied Shakespeare. I’ve worked with CBS, FX, TBS, CMT, Showtime, Focus Features, and HBO. I’ve won Gotham and Peabody Awards and was nominated for an Emmy. “It’s called acting!” FUCK YOU.

FXのドラマ『Pose』が、ありとあらゆるバカな意見への生けるカウンターになってるのがいいよね。「スターが必要なんだよ!」はいはい、『Pose』にはスターが出てるよ、【脇役】として。「トランスの役者なんかいない!」主役5人がトランスだよ。「誰もそんなの好きにならない!」『Pose』はTwitterで毎週トレンド入りしてるよ。

I love that #PoseFX is the living breathing counter to every dumb argument. “You need a star!” Okay, here are stars as *supporting* characters. “There are no trans actors!” Here are five trans leads. “No one cares!” Pose trends on Twitter every week.

さて、『トランスペアレント』などに出演しているトランスジェンダーの女優、トレイス・リセット(Trace Lysette)も、今回の『Rub & Tug』のキャスティングをこのように批判しています。

訳:

あらまあ。あなたがた(シスの人たち)は引き続きわたしたち(トランスの人たち)の役を演じるのに、わたしたちがあなたがたの役を演じることはできないの? ハリウッドは最低……シス役のために、わたしがジェニファー・ローセンスとスカーレットと同じ部屋に入ってるのなら気になることはないけど、実際にはそうじゃない。サイテー。

Oh word?? So you can continue to play us but we can’t play y’all? Hollywood is so fucked... I wouldn’t be as upset if I was getting in the same rooms as Jennifer Lawrence and Scarlett for cis roles, but we know that’s not the case. A mess.

あなたがたはわたしたちの役を演じることでわたしたちの物語や機会を盗むばかりか、わたしたちの人生を模倣することでトロフィーやら誉め言葉やらを得て悦に入るというわけ……おかしすぎる。もう疲れた……

And not only do you play us and steal our narrative and our opportunity but you pat yourselves on the back with trophies and accolades for mimicking what we have lived... so twisted. I’m so done...

ルパート・エヴェレット(Rupert Everett)が以前「ストレートの男がゲイ役を演じて山ほど賞をもらえる機会はしこたまあるが、その逆はない」と言っていたのを思い出しました。今や、トランスジェンダーの役でも似たような現象が起こっているというわけ。そして、怖いのはこの数時間後、トレイス・リセットがこんなツイートをしていることです。

自分がトランスで、率直にものを言ったという理由で、殺すと脅迫されました……別に珍しくもないけどね

Death threats for being trans and speaking my mind... nothing new

そんでね、この事態について、スカーレット・ジョハンソンが代理人を通じてBussleに寄せたコメントがわけわからないの。以下、拙訳。

「その人たち(訳注:このキャスティングを批判している人たちの意)に、あなたたちはジェフリー・タンバーや、ジャレッド・レトや、フェリシティ・ハフマンの代理人に連絡してコメントを求めることができると教えてあげて」

"Tell them that they can be directed to Jeffrey Tambor, Jared Leto, and Felicity Huffman's reps for comment."

何なの、これ。「タンバーやレトやハフマンもシスなのにトランス役をやってるんだから自分もやってもいいじゃん」の意なの? タンバーレトハフマンも、それらの仕事をした後で、トランスの役はトランスの役者にやらせるべきだという主張をしているのに、そこはガン無視なの? ちなみに英インディペンデントがスカーレットのこの発言を「軽蔑的」と報じる一方、本邦のメディアは「痛快コメント」などとほめたたえていたりしていて、余計に頭が痛くなりました。もう『トランスアメリカ』から13年も経ってるんだよ、その間の状況の変化や、積み重ねられてきた議論をなかったことにしないでよ。『Rub & Tug(原題)』が公開されても、たぶんあたしゃ見に行かないと思うわ。