イタリア北部で4~6世紀ごろに手をつないだ状態で埋葬されたとみられる2組の遺体、通称「モデナの恋人たち」が、実は男性同士だったということが判明。研究者らはとたんに2人の関係は謎だの、兄弟やいとこ同士だったかもだのと言い出し、ネットユーザーらに突っ込まれています。
詳細は以下。
「突っ込まれている」という部分をのぞけば、日本語でもだいたいのことは報道されているようです。
これまでの経緯をざっとまとめると、これらの遺体が発見されたのは2009年のこと。遺体の状態が悪かったためこれまでは性別がわからず、遺体が手を握り合うような形で埋葬されていたこと、1体がもう1体を見つめるような姿勢をとっていたことなどから、男性と女性の組み合わせではないかと考えられていました。「モデナの恋人たち」という呼び名は、そこから来ています。
このたびボローニャ大学の研究者らは、歯のエナメル質に含まれる遺伝子から、このふたりを男性同士と判定。それはいいんですが、とたんに研究者らはふたりの関係について「依然として謎のままである」、「兄弟、いとこ同士、あるいは非常に親しい兵士同士のバディかも」などと言い出しているのだそうです。おいおいおいおい、男女なら即「恋人」扱いなのに、男同士だといきなり「謎」または恋人以外の何かにされちゃうのかよ! ホワイトウォッシングならぬ、ストレートウォッシングかよ!
Pride.comではこの手のひら返しに対するネット上のツッコミがいろいろ紹介されていて、どれも面白いです。その中からひとつだけ、ダジャレも入っていておすすめなのを貼っておきます。
Researchers: we’ll never know what bond they shared
— Buddy Goodboy, Esq. (@BuddyGoodboyEsq) 2019年9月12日
Me: they’re a couple
Researchers: what a platonic respect they must have shared
Me: they’re a couple
Researchers: truly a mystery
Me: they boned https://t.co/EeHNfcAQwy
訳:
研究者ら「彼らの絆が何だったのかは決してわからないでしょう」
ぼく「恋人同士だよ」
研究者ら「彼らが互いに抱いていたに違いない敬意の、なんと友愛的だったことか」
ぼく「恋人同士だよ」
研究者ら「本当に謎です」
ぼく「彼らはやってた(boned)んだよ」Researchers: we’ll never know what bond they share
Me: they’re a couple
Researchers: what a platonic respect they must have shared
Me: they’re a couple
Researchers: truly a mystery
Me: they boned
個人的にこのニュースを読んでぱっと連想したのは、最近読んだ『つくられた卑弥呼』(義江明子著、ちくま学芸文庫)という大変面白い本のことです。同書によると、日本の古代史研究には近代のジェンダー観によるバイアスがかかっていることが多く、研究者らには以下のような傾向がみられるとのこと。
- 支配階級を示す副葬品とともに葬られた女性の遺骨を見ても、「女が支配者だったはずはないから首長の女か、巫女だったのだろう」と解釈してしまう
- 古代の名に男女の区別はなかったにもかかわらず、地誌などに記されている人物を「デフォルトは全員男、『ヒメ』などのジェンダー記号がついているときだけ女」とみなしてしまう
これ、「モデナの恋人たち」の再解釈のされかたにもよく似てませんかね。たぶん、「男同士が恋人同士だったはずはないから兄弟か、いとこか、親友だったのだろう」とか、「人間のデフォルトは全員異性愛者。同性愛者だとはっきりわかる記号がついているときだけ同性愛者とみなす」とか思ったんでしょうよ、イタリアの研究者たちも。
- 作者: 義江明子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2018/10/11
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る