石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

マクドナルドでホモフォビックな脅迫をした男を告発 スペイン・バルセロナ

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バルセロナの検察庁が、マクドナルドで2019年6月に他の客に同性愛嫌悪的な脅迫をした男と、それを見ているだけで制止しなかった警備員をヘイトクライムで告発すると決定しました。

詳細は以下。

www.dosmanzanas.com

事件が起こったのは2019年6月28日。そう、皮肉なことに国際LGBT+プライドの日です。被害者の友人が、事件の一部をおさめた動画をTwitterで発表しています。

動画の中には、黄色いタンクトップとショートパンツを着ていた被害者に、ひげ面の男が怒った口調で「少しは自重しろ、公共の場だぞ」などと言っているところが見て取れます。タンクトップの男性が、「あんたも公共の場にいるんだから自分を抑えな」というと、ひげの男は「俺はちゃんとした服を着てる」と反論。被害者は「今日はプライドの日だ」と反論するのですが、ひげの男は手を振り回しながら「知ったことか、今日はパンチを放つ日でもあるんだぞ。(中略)てめえをぶん殴って異性愛者に変えてやる」などと言ってすごみはじめます。なお、ひげ男はこの後、タンクトップの男性が店にいる間も、そして店を出るときも、ずっと暴力をふるうと言って脅し続けていたんだそうです。

上記動画はネットで大いに拡散され、地域警察が容疑者を特定して、事件から約8か月経った2020年2月、Fiscalía de Delitos de Odio y Discriminación de Barcelona(直訳すると『バルセロナ憎悪・差別犯罪検察庁』)がひげの男をヘイトクライムで告発すると決定したとのこと。さらに、犯罪を阻止する義務を怠ったとして警備員も告発するんだそうです。

ジョン・スチュアート・ミルは、『自由論』(1859)の中で、自分がこの本で示そうとしているのはたったひとつの原理だとして以下のように述べています。

その原理とは、人間が個人としてであれ集団としてであれ、ほかの人間の行動の自由に干渉するのが正当化されるのは、自衛のためである場合に限られるということである。文明社会では、相手の意に反する力の行使が正当化されるのは、ほかのひとびとに危害が及ぶのを防ぐためである場合に限られる。

自由主義の原理の中心部分である、"harm principle"(訳語は『危害防止原理』、『他者危害の原則』など)と呼ばれる考え方です。これにのっとって考えれば、ファーストフード店で黄色いタンクトップとデニムのショートパンツ姿でいても誰にも何の危害も及ばないのに対し、その人につきまとって殴ると脅すのは彼に対する危害なのでアウトだということがわかりやすいと思います。そうは言っても、おそらくこのひげ男のような方々は「女性的な(femenina)」服装の男性が視界に入るだけであたかも自分が危害を加えられたかのように錯覚してしまうのでしょうけど、ミルはこうも言ってますよ。

自分が嫌いな行為を見ると、自分は害されたと考え、感情をひどく傷つけられたと憤る人は多い。……[略]……しかし、こちらが自分なりの意見にたいして抱く感情と、こちらがそういう意見をもっていることに憤るあちらの感情は、それぞれまったく別ものである。それは、人の財布を盗みたいと思っている泥棒の気持ちと、自分の財布を盗まれたくないと思う持ち主の気持ちが、まったく別ものであるのと同様である。そして、人の好みというのは、意見や財布と同様、その人だけの関心事にすぎない。

われわれはまた、人にたいする否定的な意見を抱き、そしてそれにもとづいて、いろいろな形で行動をする権利がある。ただし、それは相手の個性を抑えつける形ではなく、自分の個性を働かせるような形でなければならない。たとえば、その人と無理に交際しなくてもよい。交際を避ける権利がある。(ただし、それをことさらに誇示してはならない)。交際したい相手を自分で選ぶ権利があるからだ。

約160年も前に書かれたこの本を、あのひげの男も読んでりゃよかったのにねえ。

自由論 (光文社古典新訳文庫)

自由論 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者:ミル
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/12/20
  • メディア: Kindle版