石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

二見書房、差別発言に反対せず便乗だけして自社作品宣伝

twitter bird

クィアなロマンス小説などを出版している二見書房の、ザ・ミステリ・コレクション&ロマンス・コレクション編集部公式Twitterアカウントが、昨今の同性婚をめぐる差別発言*1にからめて自社作品を宣伝するツイートを発信(現在は削除)。それだけなら別にいいんですが、差別に異を唱えもせず「価値観は人それぞれ」と高みの見物を決め込むだけのあからさまな便乗ツイートだったところが大問題。「マーティン・ルーサー・キングJr.牧師が言ってた人のサンプルかよ!!」と腹抱えて笑いたくなっちゃいましたよあたしゃ。

……いや、笑ってる場合じゃないな。これはただの便乗じゃなくて、もはや「悪の一部」(the part of the vice)だから。詳しくは後述。

さて、まず、消されたツイートのスクリーンショットはこちらからどうぞ。

画像が見られない方のために文字起こしすると、消されたツイートの文面はこんなです。

性の多様性を巡って国会が騒がしくなっているようですが、価値観は人それぞれ。

でも、その多様性について考えるために、弊社のLGBTQ+をテーマにした作品を読みませんか?

(引用者注:この後、翻訳小説3点の宣伝が入りますが割愛)

これを目にした瞬間に脳裏をかけめぐったのが、マーティン・ルーサー・キングJr.の名言のいくつかでした。以下、日英対訳が掲載されているサイトから引用して貼ってみます。

最大の悲劇は、悪人の圧制や残酷さではなく、それに対する善人の沈黙である。
―― キング牧師

The ultimate tragedy is not the oppression and cruelty by the bad people but the silence over that by the good people.
―― Martin Luther King Jr.

地獄の一番熱い場所は、重大な倫理上の争いの中にあって中立の立場を取り続ける人間のために用意されている。
―― キング牧師

The hellish hottest place is prepared for the man who keeps getting the neutral viewpoint in the inside of a quarrel on the important ethics.
―― Martin Luther King Jr.

悪を仕方ないと受け入れる人は、悪の一部となる。悪に抵抗しない人は、実は悪に協力しているのだ。
―― キング牧師

The person who accepts vice when it’s inevitable, will be the part of the vice. The person who doesn’t resist vice cooperates in vice actually.
―― Martin Luther King Jr.

上の方で「これはただの便乗じゃなくて、『悪の一部』」と書いた理由が、おわかりいただけたでしょうか。

だいたいさ、元ツイートで宣伝されてた『ボーイフレンド演じます』の作者アレクシス・ホールは、「自分の本が本屋に並んでいるのを見かけるのはすてきなことだけど、それよりも、出版業界が多様性を単なる流行ではなく事実として扱うようになってきていることの方を心強く思う」(以上、引用者による訳&要約)と言ってる人ですよ。でも二見書房の消されたツイートでは、「多様性」は薄っぺらな流行語としてしか扱われていません。『美徳と悪徳を知る紳士のためのガイドブック』を書いたマッケンジー・リーは自分自身が10代のときにバイセクシュアルとしてカミングアウトした人で、「人はフィクションの中に自身の姿を見ることがあって、フィクションは灯台になり得る。わたしは灯台守として読者を安全な港まで連れて行きたいと願っている」(同)と書いています。でも二見書房は、国や与党からヘイトをぶつけられて海の中でもがいている人がいっぱいいるとき、横を向いて「騒がしくなっているようです」「価値観はそれぞれ」と言うだけなんですよね? 灯台守からの光を受け取る前に死んじゃうよ*2、それじゃ。作者さんたち、この出版社から著作を引き上げた方が良いのでは。