石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『flower*flower(1)』(石見翔子、一迅社)感想

flower・flower 1 (IDコミックス 百合姫コミックス)

flower・flower 1 (IDコミックス 百合姫コミックス)

毒も色気もたっぷりの、スリリングな百合ラブストーリー。

インド風の異国に嫁いできた(と言っても相手も女)お姫様ニナと、ニナに振り回される結婚相手「朱玲(しゅれい)」(しつこいようですが女)の、前途多難な恋の物語。可愛いのに毒気があって色っぽさもたっぷりで、なおかつ展開がスリリングで、なんかもう面白すぎて鼻血噴きそうな百合コミックです。この作品を何かにたとえるとしたら、「名パティシエによってつくられた、精緻をきわめたケーキ」。甘みだけではなく、フルーツの酸味やチョコレートの苦みや異国めいたリキュールの香りが渾然一体となって脳髄を直撃する、大人向けの蠱惑的なケーキですよ。うおおおたまらん。

とにかく可愛いです。

まずは絵。絵を見れば一発。朱玲もニナも、ふたりとも柔らかくてふわふわでキラキラしてて、花のように愛らしいです。作中にも暗示されてますが、タイトルの『flower*flower』というのは、ここから来てるんですね。

さらに、絵柄だけでなく、ふたりの行動もまた可愛くてたまりません。子犬のようにひたむきな朱玲のけなげさと優しさも、強烈にツンなキャラクタのニナが時折見せるいじらしさも、のけぞるほどチャーミング。

毒もきっちり仕込まれてます。

あとがきによると、この作品は最初もっとシリアス寄りの構想だったものを、「百合っぽくキャッキャウフフな」感じに転換して今の物語になったとのこと。けれども、百合っぽい甘さの中にもしっかりと毒が仕込まれており、スリリングな展開となっています。

もっともわかりやすい「毒」は、ニナのツンっぷり。いくらツンデレキャラが流行りだからって、第1話から婚約者にいきなり人間椅子をさせて涼やかに「いまいちね」と微笑む(p. 21)百合キャラがかつていたでしょうか。いや、いません。ニナの性格ときたら、ツンデレどころか「ツンツンツンツンツン……デレと思ったら大間違いよばしーん!!(平手打ち)」ぐらいの激しさで、それがひとつの大きな魅力になっています。「俺もぶってくださいませええ」と盛り上がる国民の皆様(p. 39)の気持ちもわかるぞうんうん。

もうひとつ非常に面白いのが、朱玲の女装兄皇子。どうやらトランスセクシュアルではなくトランスヴェスタイトであるらしいこのお兄さん、ただのヘンタイ(褒め言葉)に見えて実は相当なクワセモノなんですよね。ニナの国「アディンガーラ」と朱玲たちの国「真伽(しんか)国」の間の政治的緊張にしっかり気付いていて、ニナへの

素直になったら? 貴女の人生短いかもしれないんだし

なんていうさりげない台詞(p. 56)でピリリとお話を引き締めてみせるところが、実に心憎いです。窓から朱玲とニナを見つつ呟く意味深な台詞(pp. 134 - 138)なんかも、ちょっと怖くて、でも愛と諦念も感じられて、よかった。こうした怖さあるいは哀しさが秘めやかに伏線と絡んで作品の緊張感を保っていくあたりが、さすが石見翔子さんだと思います。

色っぽさも最高。

キスやキス未遂のシークエンスもたまらんのですが、なんと言ってもものを食べる場面の指先や唇や舌の描写にとどめをさします。そんじょそこらのエロ漫画が裸足で逃げ出しそうな、地獄のような色っぽさなんですよこれがまた。絵の魅力もさることながら、「ニナの国では素手を見られることが裸を見られるぐらい恥ずかしいこと」と知った朱玲が、翌日ニナの指先を見てドキドキしてしまうシークエンスなど、両国の文化差を使った演出もまたすばらしいです。つくづくエロスって身体の末端ではなく脳で感じるものだなあと思います。

ちなみに朱玲の国には同性同士で婚姻を結ぶ習慣がありますが、ニナの国にはなし。ニナは朱玲が女だと知らない状態で嫁いできているという設定です。この先ふたりが性愛込みの関係にまでこぎつけるのかどうか気になるところですが、そのへんは、

女の子だってオオカミなんだぞ?

と頬染めて呟いている(p. 96)朱玲に期待しましょう。がんばれ朱玲。

まとめ

キャッキャウフフな中にもあの手この手で緊迫感が保たれている、実にすばらしい百合ラブストーリーでした。2巻もとても楽しみです!