石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『南波と海鈴(3)』(南方純、一迅社)感想

南波と海鈴 3 (IDコミックス 百合姫コミックス)

南波と海鈴 3 (IDコミックス 百合姫コミックス)

急に百合百合しくなった最終巻

猫耳少女「南波」とツンツンお嬢様「海鈴」の百合ストーリー第3巻。今回が最終巻となります。1〜2巻はかなりのゆるふわ友情路線だったのに、この巻では急激に百合百合しさが増していてびっくり。主に海鈴の側のドキドキ感が、とてもいいんですよ。さらに、最終回のひとつ前の回での、「友情百合VS姉妹百合」の大激論も腰が砕けるほど面白かったです。なるほど、これなら2巻までのゆるゆる展開にも納得せざるを得ません。というわけで、非常に楽しい完結編でした。

海鈴の側のドキドキ感について

あくまで恋愛と友情の境目を綱渡りしている感じではあれど、今回はセクシュアルな暗喩がかなり多いんですよ。保健室でのあれこれとか、ほっぺについた食べ物を舐められる場面とか、マタタビスナックへのあらぬ期待とか。そのたびに興奮したり取り乱したりしている海鈴の姿が百合百合しく、楽しく読みました。ちなみに性的なニュアンスとは無縁な箇所でも、海鈴が

一人に……しないで……

と涙ぐんだり(p. 34)、

誰でもってのがむかつく

と気を悪くしたり(p. 75)しているあたりなど、やはりこれまでより少しだけ恋愛寄りだと思うんですよね。帯にもある通り、掲載誌が「コミック百合姫S」に移ったことで作品のトーンが変化したのでしょうか。てっきり最後までのほほん友情路線で押して行くものと思っていたので、これは嬉しい誤算でした。

「友情百合VS姉妹百合」の激論について

第26話での二波と海鈴の大激論がめっぽう面白かったです。二波が「友情百合とか温くてダメ」と言い切る一方で、海鈴は「血縁関係あるのはちょっと……(略)実の妹に欲情して恥ずかしくないんですか」と言い返すという身も蓋もなさが、まずすばらしい。友情&姉妹百合を柱にした作品でありながら、ここまですっぱりとそれらの要素をメタ視してみせるところがかっこよすぎです。そして、その後一瞬仲良くなったふたりが、結局やはり「自分の萌えは他人の萎え、他人の萌えは自分の萎え」状態に帰結するところがさらによかった。最後の最後で南波がぽそっと真相を突くところは、もっとよかった。結局、すべての百合に貴賤はなく、ただ個人個人の萌えポイントの違いがあるだけで、その違いすら実は「百合」の世界全体に大乗的に包み込まれているのですね。

その他

メインカップル以外も以前より温度高めの関係を築いていて楽しかったです。五波と六波の、下僕関係を通り越してSM入ってる関係性とか。最終話でのるなと三波、そしてりなと六波のやりとりとか。

まとめ

以前より恋愛色を強めつつ、同時にさりげなく「百合」の定義の幅広さに気づかせてくれるというナイスな最終巻でした。従来の友情っぽさもしっかり残されているので、友情百合派の方でも大丈夫だと思います。というわけで、おすすめ。