石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『わたしたちは皆おっぱい(2)』(東風実花、芳文社)感想

わたしたちは皆おっぱい (2) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

わたしたちは皆おっぱい (2) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

おっぱい神に見守られ堂々の完結

おっぱい好きな女子中学生・鎌上貴子のドタバタな日常を描くコメディ、最終巻。今回も楽しかったです。おっぱいはいつも通りふるふるぽよぽよしているし、それでいてそこにムダに劣情が絡んでこないし。新キャラ・ジュリー(樹里)の存在でいよいよ熱く浮き彫りにされるおっぱい愛と皆のヘンタイっぷり、そしてかすかな百合の香りなど、みんなみんなよかった。実は爽やかな友情物語として成立しているところもナイス。

ムダな劣情は絡みません

これだけおっぱいおっぱい言ってる漫画なのに少しも嫌味がないのは、おっぱいを性的な「商品」として身勝手に消費する姿勢が皆無だから。主人公がどれだけハァハァしていようとも、この漫画の中心軸は一貫しておっぱいへの尽きせぬ愛とリスペクトであり、おっぱいの性的搾取ではないんです。

それがもっともよくわかるのは、貴子と樹里が対峙する第12話。暗い過去からおっぱいを汚らわしいものとして嫌悪し、

女は皆自分の身体を恥ずかしいものだと認識するべきだ

と語る(p. 145)樹里に、

んなわけあるかーい! (中略)おっぱいは すばらしいんだぞ!! (中略)ふかふかして! ムニムニして! 幸せなんだぞ〜〜!!

と一点の迷いもなく言い切る貴子の姿(pp. 145 - 146)が感動ものです。ここだけ見れば貴子個人の趣味嗜好の表明ともとれますが、違うんです。これに続く、

しかもこの世に同じおっぱいは一つとしてない! 天上天下唯パイ独尊!

という言葉(p. 146)はおっぱいを商品価値で格付けすることへの強烈なアンチテーゼですし、

全ての女子はおっぱいに誇りを持つべきです! アイムプラウドオブおっぱい!

という叫び(p.147)は、すべての女子への力強いエンパワメントとして機能しています。言うなればこれは、おっぱい好きの情熱による、おっぱいの意味の解体と再構築。おっぱいを「恥ずべきもの」というポジションから奪回し、大切に慈しむ行程。そこが実に痛快でした。

もちろん胸なんて、客観的に見れば「ほとんど脂肪」(p. 148)な一器官でしかないわけで、嫌いな人は嫌いでいいし、取りたい人は取っちゃっていいとは思うんです。でも、それと他者による性的な値踏みや蔑視を受け入れるかどうかはまた別問題。この第12話は、1巻収録のシリアス読み切り「海と泡沫」のテーマに別角度から斬り込んだものであり、思春期女子ならずともぐっとくるものをたたえているとあたしは思います。

やっぱり皆ヘンタイ

例によって、真正面から百合なお話にはなりません。が、あとがきによると、とあるキャラは「このまま百合っ子になりそうだったので、そんな展開が描けなかったのはちょっと残念」とのこと。言われてみれば確かに百合の萌芽は見られますし、それだけで充分楽しめます。また、いちレズビアンとしては、ルミネの「美少女アンテナ」(p. 85)に共感しまくりでした。新キャラ・トレーシー先生のネタが、最終的に「わたしたちは皆同類」というところに着地するところも好印象。というわけで、1巻と同じく、うっすら百合で全員ヘンタイな、楽しい漫画でした。

友情物語としての『わたしたちは皆おっぱい』

甘酸っぱい友情物語としてキレイに幕が閉じられています。1巻で出てきた友情テーマを2巻冒頭で再確認し、最後でさらに強く打ち出すという構成が効果的でした。

まとめ

シリアスなテーマを笑いとおっぱい愛で包み込んだ、ユニークな1作。貴子のバカパワーと情熱でおっぱいを(ひいては女体全般を)肯定し切ってみせるくくだりが好きです。またコメディとしても、思春期もの・友情ものとしてもとてもよかったです。百合としてはやや薄口ではありますが、おすすめ。