- 作者: 望月飛鳥
- 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
- 発売日: 2007/11/22
- メディア: 単行本
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ベトナムを舞台にしたバイセクシュアル小説
日本人女性「ヒロ」とベトナム人女性「ユン」とのつきあいの顛末を描く小説。性別二元論や男女の対幻想を疑いもしない人には面白いのかもなあ。あと、濃厚レズシーン(笑)さえあれば喜んじゃう人にも。個人的には、ヒロのナイーヴさ(ジャパニーズイングリッシュとしての『ナイーヴ』じゃなくて、経験や知恵や判断力がなさすぎるという意味での"naive")が肌に合わなくて、あまり楽しめませんでした。こうしたヒロの未熟さ具合をいとおしむことができるほどオトナな方なら、また違った感想が出てくるかもしれないとは思いますけど。
このへんは面白かったんですが。
まず、異国情緒あふれるベトナムの風景。アジア的な喧騒と猥雑さが伝わってきて、面白かったです。
それから、ヒロとユンの官能シークエンスは、さっぱりした描写の中にも熱情が感じられてよかったと思います。たとえばこのあたりとか(p. 64, 66)。
私はユンの顔を上目遣いでじっと窺う。指でユンの唇をそっとなぞり、キスしてもいいかと、目で問いかける。僅かに揺れたユンの瞳の中に私は私を見つけて、鏡を見るように顔を近づけて覗き込む。最初は軽く触れる程度に重ねた。ユンが伏し目がちに私の唇を見ている。その顔が色っぽくてゾクゾクする。二人の間に漂う空気の濃度と湿度が高すぎて息苦しかった。私はユンの口に舌を入れ、舌を吸い、唇を舐めた。ユンは少し照れた表情を見せながらも、私の動きに合わせて舌を絡ませてくる。
ユンとの行為は今まで経験した中で一番甘いものだった。ユンと出会って、私は初めて人を食べる感触を味わい、初めて誰かを制覇したい強い欲望にかられた。私はそんな欲望を自分が持っていたことに驚いた。
でも、このへんは今ひとつ。
ヒロはユンと付き合う傍らで、日本人男性の「紺野さん」とのセックスも楽しみます。それは別にいいんですよ。主人公がバイセクシュアルであろうとポリアモラスであろうと、んなこたたいしたことじゃない。
でも、ここ(p. 199 - 200)だけはまったく共感できませんでした。
紺野さんを手放したくなかった。あの男性特有の匂いとかペニスの感触とかを忘れてしまったら女じゃなくなるような気がして怖かった。私は、女としてユンを愛したかったのだ。
えええええー。何ですかこの、「男があるから女もある」「男とセックスしてこそ女」みたいな幼稚な対幻想は。ひょっとしたら主人公のこうした青さ・お馬鹿さを味わうのがこのお話の醍醐味なのかもしれませんが、だとしてもこのモノローグから結末までの間に何のひねりも目新しさもないのはどうよ。ヒロの同性愛または両性愛の背後に成熟拒否がほのめかされるところは凡庸だし、オチも早々に割れてしまうしで、正直言って物語後半はかなり退屈でした。「ステレオタイプを後生大事に抱えた人が、そのステレオタイプゆえに行き詰まっちゃいましたー☆」という展開を見せつけられたって、「自業自得。さっさとステレオタイプ捨てれば?」としか思えないわ、あたしには。
まとめ
良く言えば無邪気な、悪く言えばアホで幼稚な主人公の恋模様に異国情緒をまぶした物語だと思います。ヒロの青さとお馬鹿さをいとおしむことができる大人の方、あるいはヒロと同じぐらい強固に男女の対幻想を内面化した方にはいいかもしれませんが、あたしにはあまり合いませんでした。