石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

映画『ウエルカム! ヘブン』感想

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意外性に富むチック・ムービー

ペネロペ・クルスとビクトリア・アブリルが主演のチック・ムービー。ライバル物かと思いきや途中からバディ物になり、そして最後に意外な形でカップル成立という面白い作品でした。「カップル成立」の部分をレズビアン物と解釈するか否かは意見が分かれそうですが、ロラ(ビクトリア・アブリル)がカルメン(ペネロペ・クルス)に惹かれていく過程およびラストの会話がとてもよかったので、個人的には「これはこれでアリ」だと思います。天国・地獄・地上の3つの世界で言語が違うという設定も面白いし、先が読めないストーリーや型破りなキャラ造形もよかった。多少テンポの悪い部分もないではないのですが、それを補って余りある楽しさにあふれた作品だと思います。

レズビアン映画(?)としての『ウエルカム!ヘブン』

ポルノチックではない文脈で常にレズビアニズムがほのめかされているところが面白かったです。借金取りの女の発言とか、カルメンの言動とか。特にカルメンなんて、ああいうレズビアン、いるよねえホント。ロラがカルメンに惹かれてしまって、意味深な曲をノリノリで歌い踊るところもよかったし、強盗事件以降の怒濤の展開は言わずもがな。最後の方にびっくりするような仕掛けが二重三重に仕込まれてはいるのですが、このロラがカルメンに惚れていく部分と、エンドクレジットの会話だけで十分「クィアなラブストーリー」と呼べる作品だとあたしは思いました。他には、嫉妬にからめた男性のレズビアン嫌悪が巧みに描かれているところなんかも、コワいけど面白かったです。ファンタジックな作品なのに、いい意味で現実味があるんですよ。

設定のおもしろさ

天国と地獄が人間の魂をめぐって争う、という一種のSF仕立ての物語なのですが、

天国
古いフランス映画風の穏やかなモノクロの世界。公用語はフランス語。
地獄
騒々しくストレスフルな世界。公用語は英語。
地上
天国と地獄の中間の世界。公用語はスペイン語。
という風に、3つの世界でそれぞれ言語を変えるという切り口がユニークでした。ちなみにロラは天国の使者、カルメンは地獄の使者という設定で、ふたりは普段スペイン語で会話しています。だからこそ、たとえばロラが突然英語で"I want be evil"なんて曲を歌って踊り出す場面が、彼女がカルメンの世界にぐっと近づいていることを暗喩していたりして、面白いんです。

キャラとストーリーのおもしろさ

天国側と地獄側のキャラたちがそれぞれまったく型にはまっていないところもよかった。誰も背中に羽根が生えてもいなければ、悪魔の尻尾もないんですよ。ちなみに天国の作戦本部長はファニー・アルダン演じるところの上品なマダム、地獄の作戦本部長はガエル・ガルシア・ベルナルのやんちゃな若者です。ふたりともすごーく色っぽくて、魅力的でした。

ちなみにキャラだけでなく、ストーリーもまた型破りです。SF、コメディ、アクション、ミュージカル、クライムサスペンスなど、あらゆるジャンルを取り入れた混ぜごはんのようなスタイルがユニークだし、後半での小さなどんでん返しの連続もサービス精神豊富でよかった。伏線のきかせ方も心憎く、カルメンの見たがる映画やボクシングのシーン、序盤でのウエイトレスの場面などでの小さなひっかかりが、最後に「だからああだったのか!」とわかるようになってます。ただこれ、DVDパッケージの裏面にちょっとしたネタバレがあるんですよ。これからご覧になる方は、パッケージ裏を見ずに鑑賞された方がいいかもです。

難点を挙げるとすると

序盤はやや話のテンポが悪いような気がしないでもないです。同じ路線のペネロペ・クルス物なら、『バンディダス』の方がとっつきやすかと。しかし、後半以降の怒濤の展開はそれを補って余りあるので、結局はチャラですねチャラ。ひょっとしたら、後半のジェットコースター展開との緩急の差をつけるために、序盤はわざとじっくり話を進めているのかも。

まとめ

先の読めないストーリーと意外性あふれるキャラたちが光る、ユニークな映画でした。100パーセント純然たるレズビアン・ラブ・ストーリーかと言われたら「いや、ちょっと違う……かも……」と答えざるを得ないんですけど(見ればわかる)、それはお話に予想外な方向のひねりがきかせてあるからで、これはこれでクィアで面白いとあたしは思います。カルメンとロラの愛も深いし、終盤での手に汗握るサスペンスもきわだっていて、楽しく見られた作品でした。