石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『Sweet Little Devil』(南崎いく、一迅社)感想

Sweet Little Devil (IDコミックス 百合姫コミックス)

Sweet Little Devil (IDコミックス 百合姫コミックス)

2学年違いの小夜と律子の恋を描く表題作シリーズの他、『百合姫Wildrose』『コミック百合姫』掲載の短編を取り揃えた1冊。当を得たエロ描写、生き生きしたキャラクタ、きちんと計算されたオープニングとエンディングなどに惚れ惚れしました。安心して読める、ハイクオリティな百合作品集だと思います。

エロについて

「モロの局所描写がなくても、どこを触って何をしてるか手に取るようにわかる」という匠の技が炸裂しまくっています。しかもその触り方も、本気で女同士のセックスのそれ。男性向け百合エロによくあるような「ネカマ同士のレズごっこ」感は皆無です。

これだけでも感涙ものなのに、さらにすごいのはメンタル面のエロティックさ。その最たるものが、読み切り短編「恋愛準備室」。報われぬ相手に焦がれる奥井さんを、先輩の詠子さんが言葉で嬲りつつ抱く場面で交錯する、心的サディズムとマゾヒズムのエロエロしさよ。特に、

今…すごい締まった…
奥井ってばMっ気あるんじゃない?

と詠子が笑うところ(p. 83)は、詠子のSっ気のみならず、自分のものには決してならない奥井を愛し続ける詠子のマゾヒズムをも表していて、ぞくぞくするほど官能的。このミルフィーユのように複層的なエロスが美味しすぎます。

キャラについて

各キャラの人物像がくっきりはっきり。言い換えるなら、「キャラたちが何を求めていて、その障害は何なのか、障害にあたってどう行動するのか」が明確。読みやすく、わかりやすく、共感しやすいです。

構成について

エンディングとオープニングのイメージが対をなし、「その間にどんな変化が起こったか」を伝えるという構成が気持ち良かったです。たとえば上記「恋愛準備室」は美術準備室のドアに始まり、美術準備室のドアに終わるのですが、その間に実は詠子もまた切なくけなげな恋をしているのだという事実がわかるようになっています。「私たちのミライ計画」では、物語は主人公の進路の話でサンドイッチにされており、結末でキャラの成長が示されます。「卒業式」はオープニングもエンディングも卒業の日の学校での風景で、前者が「(学校生活の)終わり」のみを表す一方、後者は「新たな何かの始まり」をも暗示しています。

この、お話の最初と最後のイメージを対にするというのは、フィクションの構成として鉄板だと思うんです。『ルパン3世カリオストロの城』は、オープニングもエンディングも「警察に追われるルパン一味」。『天使にラブ・ソングを…』では、両方ともデロリスの笑顔。『パルプ・フィクション』は、レストランでの強盗シーン。いずれも結末の方で、「オープニングの時点と何がどう違うか」がはっきり伝わるようになっています。それと同じことを、この漫画はやっているわけ。この計算された様式美が感動を高め、余韻を深めています。

まとめ

エロも愛もキャラの魅力も濃厚で、かつ、隙のない構成がここちよい短編集でした。満足、満足。