石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

映画『I'm the One That I Want』感想

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マイノリティからの痛烈カウンターパンチ

「ゲイ映画やレズビアン映画と言えば、綺麗なお兄ちゃん同士の(あるいはお姉ちゃん同士の)ラブストーリーだけ」と思うのは間違いで、こういう爆笑もののスダンダップコミックのライブ映画だってあるんです。

パフォーマーのマーガレット・チョウは、コリアン・アメリカンの人気コメディアン。同性愛ネタとアジア系アメリカ人ネタのギャグに定評がある人です。彼女の下品かつ強烈なパフォーマンスは、腹がよじれるほどおかしいだけでなく、マイノリティからマジョリティへの痛烈なカウンターパンチとして機能しています。ちなみに本人は自分のセクシュアリティをゲイだともストレートだとも決めつけず、"I'm just slutty"(単なるアバズレ)と言い放っていて、そんなところにも好感が持てますね。ライブ会場のファンの人が自作したとおぼしき"SLUT PRIDE"(『ゲイ・プライド』や『レズビアン・プライド』ならぬ、『アバズレ・プライド』)Tシャツをあたしも着たいわ。

"I'm the One That I Want"について

前半が同性愛ネタ、後半がアジア系アメリカ人ネタとなっています。前半でも後半でも、マーガレットの観察眼が光ってます。まずカール・ラガーフェルドの物真似だの、マーガレットから見たゲイ男性とヘテロ男性の違いだの、無表情で妙にゲイ・フレンドリーな彼女の母親の物真似だので息もつかないほど笑わされた後、話の焦点はマーガレットがかつて主演した失敗作のTVドラマ"All
American Girl"へと移っていくのですが、この失敗譚というのが本当に壮絶。「アメリカでアジア系であるということはこういうことなのか」と、ショックを受けました。

100パーセントアジア系なのに"not Asian enough"と評され、『ムーラン』みたいないんちき臭い「アジアっぽさ」を要求される屈辱。そして、「顔が大きすぎる」と2週間で15キロ近くも減量させられる肉体的苦痛。急激な減量でマーガレットは腎臓を壊し、血尿まで出たそうですが、それでも対外的には「ダイエットはさせていません。伝統的なアジアの食生活に戻させただけ」ってことになっていたとか。頭身が白人と違うアジア系に血尿まで出させて小顔を要求しておいて、それはないだろー! しかも、そこまで自分をすり減らしてもドラマは失敗に終わり(脚本自体がアジア系アメリカ人の実態をまるで無視していたため、評価は低かったらしい)、マーガレット・チョウはその後ダイエット・ピル中毒からアルコール依存、そしてセックス依存にまで陥ったんだそうです。

これらの悲惨な体験をお涙頂戴にせず、笑いの爆弾にしてステージで炸裂させるマーガレットは本当にすごいです。特に腎機能障害で入院した病院での"Hi, my name is Gwen, I'm here to WAAAAASH YOUR VAGINA."と叫ぶ看護師の話なんて最高。あの「ウォーーーーーッシュ・ユア・ヴァジャイナ!!」連発のくだりを聴いて爆笑したり真似したりせずにいられる人は果たしているんでしょうか。セックス依存の話のところの"drive like this"ってしぐさなんかも、ゲイ友との友情も感じられる心あたたまるギャグでしたね。すんげーお下劣ですけどね。とにかく名文句・名ギャグがぎっしり詰まったショウなので、友達や恋人と一緒に見ればその後いつまでも引用して遊べることと思います。

まとめ

冒頭でも書いたんですが、マーガレット・チョウのステージの最大の魅力とは、「笑い」のカウンターパンチです。「その人がその人であること」を否定される怒りと悲しみに、笑いでもってガツンと逆襲をかますのがマーガレット・チョウ。だからこそ、彼女にはあんなにもゲイやレズビアンやエスニック・マイノリティのファンが多いんだと思います。社会から蹴り出される痛みを知っている人にとってはたまらなく笑えて泣ける映画だと思いました。