石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

映画『素顔の私を見つめて…』感想

素顔の私を見つめて… [DVD]

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母娘の歩み寄りをコミカルに描く映画

中国系アメリカ人の家庭を舞台に、レズビアンの娘とその母との歩み寄りを描いた映画。これはなかなかの当たりでした。ゲイ映画『トーチソング・トリロジー』のような母子セメントマッチ的全面対決はないものの、全体的にコミカルで切なくて深いお話になっているところが素晴らしい。「家族に拒絶されるレズの悲劇」みたいなメロドラマは見たくないって方にも、これなら安心しておすすめできます。

よかったところ

母親のキャラクタ

母親ホイランを単なる「メロドラマのヒロイン」や「同性愛に無理解な鬼母」にしないためにたくさんのアイディアがつぎ込まれていて、そこがとてもよかったです。実際、この映画、娘よりもむしろこの母親の描写の方に力が入ってるんではないでしょうか。ジョアン・チェンのコメディエンヌっぷりも光っていて、レンタルビデオ屋から始まる一連のシークエンスや、娘の恋人を招いた食事の場面なんて、おかしくて可愛くてもうたまりません。デートシーンでの美しさもすばらしかったです。

レズビアン2人のキャラクタ

レズビアンの娘ウィルとその恋人ビビアンの2人に、いかにもそのへんにいそうなリアリティがあるのがいいですね。ウィルの恋愛に対する態度が臆病かつヘタレすぎて、見ていてちょっとイライラしないでもないんだけど、ああいう不器用で自分を抑圧しがちなクローゼット・レズビアンって本当にいるからなあ。ウィルは新進気鋭の形成外科医(つまり、手先は人一倍器用なはず)という設定なので、その分余計に恋愛面でのどんくささ・ぎこちなさが浮き立っていて、そのへんのコントラストもユーモラスで楽しかったです。

緻密な伏線

この映画のひとつのポイントは「母親のおなかの子の父親は、いったい誰なのか?(注:母親は未亡人で、相手を決して明かそうとしないんです)」という謎解きなんですが、謎解きのための伏線の張り方や回収の仕方が実にお見事! DVDでご覧になる方は、ぜひ2回見てください。2回目で初めて、「ここはこういう意味だったのか!」と唸らされる箇所がいくつもありますよ。

「同性愛」へのフェアなまなざし

もちろんお話の中にはウィルの同性愛を「良くないこと」「恥辱」と考えるキャラクタもいるんですけど(母親だって決して良くは思っていないし)、それは別にいいんです。それより、映画を撮る側が、同性愛を無意味にけなしも持ち上げもしないフェアな視点を終始保っているのがとても嬉しかった。それはウィルとビビアンの描かれ方を見てれば充分伝わってくることなんですが、女性2人のヌードでのセックスシーンに監督がつけていたこのコメンタリーなんかにもたいへんはっきりと現れています。(以下、強調は引用者によります)

(引用者注:「『このシーンはヌードなしでもいけたはずなのに、なぜあそこまでやる必要があったのか』とよく聞かれる」と述べた後で)、「このシーンはセックスというより母親からの電話がポイントなの。重要なのは、こういう彼女たちを初めて見るときに2人をシーツで隠したりしたら“これは恥ずべきことだ”と言ってるようなものよ。だからむしろ存分に見せたかった。母親からの電話でウィルがシーツをかぶるまでね。そこで羞恥心を見せる方がずっといいと思うわ」

まとめ

邦題こそ変に情緒的になっちゃってますが(原題は"Saving Face"、つまり「面子を保つこと」ぐらいの意味)、それ以外にはマイナスポイントが見当たらないぐらいよくまとまったコメディでした。レズビアン要素を目当てに観るもよし、ジョアン・チェンの可愛くてすっとぼけた演技を目当てに観るもよしのおすすめ作品です。