石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

小説『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』(深見真、角川書店)感想

アフリカン・ゲーム・カートリッジズ (Next)

アフリカン・ゲーム・カートリッジズ (Next)

小島里美警視にメロメロだよー!

参った。やられた。楠木飛鳥(この作品のキャラのひとり)じゃないけれど「女でしくじるのはもうこりごり」と思っていたのに、レズビアンキャラの小島里美警視にメロメロだよー! あんな危険な猛獣に魂持っていかれてどーすんだ自分! うおおおお! でも魅力的すぎるんだよ小島里美! なんかもう力技でねじふせられたよちくしょー!

……というわけで現在頭がフットーしているため、冷静に感想書くのが難しいのですが、頑張って書いてみます。

1. 『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』について

『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』は、何もない空間に銃を呼び出すことのできる特殊能力者「銃使い」と、銃使いを徹底的に弾圧する国家特別銃取締局(GEA)との戦いを描くガンアクション小説です。同作者さんの『ヤングガン・カルナバル』が比較的飲みやすいバーボンソーダだとしたら、こちらは生のままのウイスキーのように濃いお話で、ある程度読み手を選ぶかもしれません。銃使いという設定自体の面白さや、主人公少年のナイーブな感性、そして強烈な同性愛者/両性愛者のキャラクタたち(特に、とんでもなく強いレズビアンたち!)がユニークな作品だと思います。

2. 「銃使い」という設定の斬新さ

召還魔法のたぐいで精霊だの魔族だのモンスターだのを呼び出すという設定のファンタジー小説は世に掃いて捨てるほどありますが、本作ではそれを「銃」(それもベレッタM92FSだのM59TAだのSIGザウエルP226だのの、実際に存在する銃)という現実感あふれる小道具を使ってやってみせているところが斬新です。考えてみれば、魔法の炎に身を焼かれて死ぬのと、FMJ弾丸に頭をぶち抜かれて死ぬのとでは、後者の方がイメージしやすい分だけ恐ろしいはず。ファンタジックな設定の中にも冷徹な現実感を一筋残す、面白い仕掛けだなあと思いました。

3. 小島警視について、そしてたくさんのレズビアンキャラについて

小島里美はGEAの警視であり、身長190cm、体重95kg、体脂肪率9パーセントの美貌のレズビアン。「羊の群れの中にベンガルタイガーが混ざっていたような」「地上最強の霊長類」「バッジをつけた女チョウ・ユンファ」と形容される、破天荒なまでに強く豪快なキャラクタです。『ヤングガン・カルナバル』の鉄美弓華が成長途中の若い猛獣だとすれば、こちらは一分の隙もなく完成された成獣といったところでしょうか。

主人公(銃使い)の立場で話を追うかぎり、小島里美は最大の敵なんですよ。ところが、これがどうしても憎めない。危険な野獣だとわかっていてもついつい虎の美しい模様に見とれてしまうように、読めば読むほど彼女の八面六臂の大活躍から目が離せなくなってしまいます。それでも途中までは頑張って「いや、この人敵だから! 気を抜くと食い殺されるから!」と一生懸命自分に言い聞かせながら読んでいたのに、里美の補佐役である楠木飛鳥(この人もレズビアンです)が里美に惚れたエピソードを読んで完全にハートを撃ち抜かれました。ああ、もう駄目だ。白旗を上げるしかないわこりゃ。設定によると小島警視の近くには自然とレズビアンばかりが集まってしまうということですが、それもすっごくよくわかる気がしました。

なお、この作品では、里美以外の女性キャラクタもほとんど全部がレズビアンです。男性キャラもゲイやバイセクシュアルがたくさん登場します。それが嫌だ、という人もいるでしょうが、あたしはかえって嬉しかったです。こっちは普段、異性愛者ばかりが登場する小説を我慢して読んでるんだからさー、たまには同性愛者(や両性愛者)ばっかり登場するお話だって読ませなさいよ、ってなもんです。

4. 世界を変える――クソな世の中とどう格闘するか?

空中から銃を生み出すだの、戦乙女のように強いレズビアンだの、荒唐無稽といえばその通りでしょう。リアリティに欠けるというのも、その通り。あと、比較的初期の作品だということもあってか、たとえば心理描写に一部荒削りな感があることは否めません。

けれど、このお話は、「それがどうした?」という気分にさせてくれます。この物語にこめられているメッセージは、現実にクソな世の中と戦うための宝の山だと思うんですよ。実際、読み終えた瞬間、胸の真ん中にドカッと「戦うためのエネルギー」をもらえたような感じがしました。そこが『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』の最大の魅力であり、枝葉末節に拘泥してせっかくのこのエネルギーに気づかないのは、たとえば映画『カンフーハッスル』を見て「人体の構造上、『獅子の咆哮』なんてありえないからこの作品はダメ」と言い出すのと同じぐらいアホなことだと思いました。

まとめ

長々と書いてきましたが、簡潔に言うと、この3点に尽きます。

  • 「面白かった!」
  • 「小島里美サイコー!」
  • 「小手先のリアリズムなんてクソ食らえ!」

さらに一言だけでまとめるなら「大好き」ですね。大好きだわ、この小説。