石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『パパイヤ軍団★(1)』(青木光恵、太田出版)感想

パパイヤ軍団★ (1) (f×COMICS)

パパイヤ軍団★ (1) (f×COMICS)

人間くさいカップル描写が素敵。

キャバクラ「パパイヤ」をめぐるさまざまな人々を描いた漫画。ちえりと美果という女性同士のカップルが1組いて、いろいろとリアルでおもしろかったです。

なんというか、このカップル2人のダメさ加減がすごく人間くさくていいんですよ。ちえりはヤリマンで実はいろんな男とも関係があるとか、美果は美果でちえりから「私と美果ちゃんエッチばっかしかしてないじゃん(中略)好きだとか言うだけでこんなの実際はヤリ友だよー」と泣かれてヘコみまくるとか、そういうところが、下手な「お姉さま……(はぁと)」的テンプレ女子校百合の百万倍ぐらい、生身の人間の感情を描いてる感じだなあと思いました。なお、ちえりに「やってばっかじゃん」と泣きながらなじられた美果がその後他の人に恋愛相談して、

も――すんげえ好みで可愛くって 会ってるとも――触りたくてやりたくてやりたくてしょーがねーんだけどそれってダメ!? (引用者中略)なんつーかもう見てるだけでクリトリス勃ってしょーがないみたいな!!

と叫ぶシークエンスなんかもすごく好き。昨今、女性同士の性愛込みの恋愛を描く漫画というのはずいぶん増えましたが、ここまではっきりとキャラクタの「好きで好きでやりたくてしょーがない」という感情を描いてみせる作品ってまだまだ少ないと思うんですよ。なので、読んでいてたいへん嬉しかったです。

「百合はキヨラカで美しいもの。汚い現実なんかとは違うドリーミーな世界でなくてはならぬ!」みたいな主義主張の人(もちろん、百合好きが全てそういう人だとは思いませんよ。念のため)には、たぶんこの漫画はまったく合わないことでしょう。そういう人って、結局は女のコ同士の関係にTDRみたく入念に殺菌消毒されまくった人工のレジャーランドを求めているのだと思います。つまり、一見自然に見える川には塩素系漂白剤の匂いがただよい、花は毎日人の手で満開のものに植え替えられ、塵ひとつ落ちていることを許されないようなキレイキレイな世界で現実の悩みを忘れて遊びたい、というわけですね。

そういう百合作品もそれはそれで美しいし、フィクションとしてはありだ、とは思います。でも、そういうのばかりを見ていると息がつまるわけですよ、レズビアンとしては。「私らそこまで強迫的に殺菌消毒された世界にしか存在しちゃいけないんですか」「女のコ同士のカップルって、ヘテロの現実逃避のための書割ですか」とか思ってしまうわけですよ。なので、そういうわざとらしいレジャーランドを設定せずに、つまり人間のしょーもなさやアホさやみっともなさもしっかりと受容して女の子カップルを描写している『パパイヤ軍団★』を読んで、なんだかほっとしたのでした。ちなみにこの漫画、女性同士のセックス描写も繊細でよかったですよ。