石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ユリポップ』(珠月まや、一迅社)感想

ユリポップ (IDコミックス)

ユリポップ (IDコミックス)

ポップで笑える百合短編集

計5組の♀♀カップルが活躍する百合コメディ。生きのいいギャグが楽しかったです。絵だけ見ていると今どきの萌え絵風なのですが、中には単なる「萌え」にとどまらない新鮮な笑いがつまっています。百合ものとしてもよかった。愛情の描き方にひねりがきかせてあって、かつ、可愛くて。

ギャグについて

「何故ここでこの名詞が出てくる!?」みたいな意外性にあふれた笑いの取り方が楽しかったです。変化球を駆使して器用にストライクをとる技巧派ピッチャーのような漫画だと思いました。

愛情の描き方について

百合ものにありがちなテンプレな愛をメタ視し、もう少し深いところにひょいと切り込んでいくんですよねこの漫画。それが特に顕著なのは、一見お嬢様な先輩「春香」に憧れる「ユキ」のお話。以下、ユキの台詞です。

センパイの家ってすごいお金持ちとか それで午後はバラ園でアフタヌーンティ飲んでるって聞きましたよ?
すごいです!! あこがれです!! ステキですセンパイ!!

これだけなら既存の百合ものに腐るほどある「憧れのお姉さま」像ですよね。しかし春香の返事はこちら。

全然違うわよ? 築35年の平屋だし 午後は体操の後 調べ物
育てているのは紫蘇だけよ?

結局ユキはセンパイの外見(そとみ)に憧れていただけで、中身は何も知らなかったわけです。こういうことをギャグに乗せて何気なくさらけ出してしまうというのが、この漫画の面白いところだと思います。

ちなみにこの作品、このような会話があるからと言って、「相手の中身を知り尽くしていなければ愛ではない!」みたいな狭量さもないんです。それは変人キャラ「はくしゃく」の活躍を見ていれば一目瞭然。この「はくしゃく」自体、一歩間違えると陳腐なセクハラレズビアン型のキャラになってしまいそうなのに、全然そうならないところがユニーク。女のコ同士の愛をひとつの型に押し込むのではなく、独特のひねりや遊びの効いた形で描いていく漫画だなあと思いました。

キャラクタの可愛らしさについて

単に目が大きくて萌え絵なキャラだから可愛いんじゃないんです。行動がとにかく可愛いんですよこの人たち。第1話の月子とひめを見るだけで、それは明らか。設定や説明台詞ではなく、エピソードを使ってキャラの魅力をぐいぐい伝えてくれるところがすごくよかったです。

まとめ

コメディとしても百合としてもとても楽しい短編集でした。意表をついたギャグで笑わせてくれるところも、女のコ同士の愛がありがちなパターンをなぞって終わりではないところも好印象。キャラクタもキュートだし、おすすめです。