石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『少女薄命〜猫目堂ココロ譚〜』(東雲水生、一迅社)感想

少女薄命~猫目堂ココロ譚~ (IDコミックス 百合姫コミックス)

少女薄命~猫目堂ココロ譚~ (IDコミックス 百合姫コミックス)

ややダークな百合短編集。紋切り型な部分も。

『百合心中〜猫目堂ココロ譚』に続く猫目堂シリーズ第2弾。計4編の短編が収録されています。前作に引き続き、ややダークな作品が多い感じ。ただ、きゃるるん百合な部分がテンプレすぎて、せっかくの暗めな部分とのバランスが悪いような気もします。キャラの心情の変化について行きづらい部分もあり、総合するとあたしの中では5段階評価で3ぐらいに位置づけられる作品です。第6話「縛る赤」クライマックスのぞくりとくる感覚などは、とても好きなんですが。

このへんがかなりテンプレ

たとえば「ステラ・マリス」のp. 43〜54あたりや、「砂糖菓子は夢を見る」の冒頭から潤がちあさを拒絶するまでの間など、新味が足りなさすぎる気がします。予想を裏切ってくれるものがほとんどなく、ひたすらベタ。ありていに言って、可愛いんだけれど退屈。どちらのお話も、胸を刺す展開になってからはオリジナリティが増すのですが、そこまでのベタな部分を読むのがまるで消化試合のようで、苦痛でした。ひょっとしたら、「あえてありがちな展開を見せておいて、ダークな部分とのコントラストを狙う」という戦略なのかもしれませんが、だとしてもあそこまで没個性的にしなくてもいいのでは。

キャラの心情変化について

第9話「甘い盲目」での主人公の心境の変化についていけませんでした。主人公が自分の気持ちをさかんに説明してみせる場面こそありますが、「この人はなぜ、そういう心境に至ったのか」というのが見えてこないんです。キーアイテムについての話は猫目堂に行く前にも出ていて、そこでは心境は変わらなかったんですよね、この人。それが、猫目堂で同じアイテムを手にしたとたん自動的に態度を改めて友達を増やし、唯との関係も改善されてめでたしめでたしというのが納得いかない感じでした。他の収録作に比べると、このお話だけ、猫目堂の果たす役割が不明瞭になってしまっているような気がします。

でも、このへんはよかったです

冒頭でも書きましたが、「縛る赤」のクライマックスが好きです。赤い糸伝説をうまく使った、凄味のあるシークエンスだったと思います。キスシーンのエロティシズムもいい感じでした。
「砂糖菓子は夢を見る」ラストのちあさの台詞(手書き文字のところ)もよかった。「そう言われてみれば……!」と前の方まで見返して、ニヤニヤしてしまいました。

まとめ

毒をはらんだ部分は面白かったし、他にもよかったところはあるのですが、女同士のキャッキャウフフの部分が紋切り型すぎる気がします。また、一部の作品では、キャラクタの心境の変化にもう少し説得力がほしかったところ。今後の展開に期待したいです。