石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『鬼ごっこ(1〜3)』(黒柾志西、一迅社)感想

鬼ごっこ 1 (IDコミックス REXコミックス)

鬼ごっこ 1 (IDコミックス REXコミックス)

鬼ごっこ 2 (2) (IDコミックス REXコミックス)

鬼ごっこ 2 (2) (IDコミックス REXコミックス)

鬼ごっこ (3) (IDコミックス REXコミックス)

鬼ごっこ (3) (IDコミックス REXコミックス)

百合云々以前に、まず和風伝奇漫画として面白い

1巻から3巻まで、息をもつかせず一気読みしました。おっもしろいよコレ! 百合云々以前に、まず和風伝奇漫画として爆裂に面白い! 読み手をぐいぐい引っ張りこむテンポのよさ、凄味のあるスタイリッシュな画面、コワさとギャグとの軽妙なバランス、そしてあざとすぎない官能など、どれをとってもよかったです。ちなみに「官能」の部分に女のコ×女のコのシチュエーションが多発するわけですが、これがまた、ただの萌えエロだけでは終わらないひねりが効かせてあって、実に心憎いんです。おまけに、なんと男のコ×男のコのシークエンスも登場するという守備範囲の広さ。すげーすげー。早く4巻が出ないかしら。

1. 和風伝奇ものとしての『鬼ごっこ』の良さ

1-1.読者を引きずり込む吸引力

「継ぐ者」と呼ばれる強大な力を秘めた女子高生「源頼子」が、その力ゆえに妖に狙われる、というのがストーリーの大筋。ある意味『アカイイト』の贄の血設定にも似ていますが、桂と頼子の最大の違いは、「頼子自身が(今は未覚醒ながらも)妖を殺せる力を秘めていること」、そして残忍な「継ぐ者の意思」が頼子の中に潜んでいること。つまり、単に味方に力を提供するだけのけなげなヒロインではなく、一歩間違えば味方をも滅ぼしかねないコワさと危うさを秘めたキャラなんですね。この「危うさ」の醸し出すスリルと、序盤からのテンポのよさが、読者をしてぐいぐいとストーリーに引っ張りこんで離しません。とことん吸引力に長けた漫画だなあと思います。

1-2. スタイリッシュな画面

なんといっても血! 戦闘シーンの血の描写! 白黒のメリハリをきかせた、たいへん迫力のある描き方なのに、常に抑制のきいた「美」があって、必要以上のエグさやグロさは皆無なんです。凄惨な状況を描いても決して「悪趣味」には傾かない、たいへんスタイリッシュな画面構成だと思います。

1-3. コワさと軽妙なギャグとのバランス

六ノ助やシノなどのなごみ系のキャラ、そしてセクハラ大魔神の理緒などを巧みに配置することにより、コワくてスリリングなお話にうまく緩急がつけられていると思います。このへんのはからいも、とてもいいです。

2. 百合もの(または、クィアもの)としての『鬼ごっこ』の良さ

2-1. 女のコ×女のコのシチュエーションについて

これがまたいいんですよ! まず、頼子に常にセクハラする同級生の理緒ですが、よくあるニンフォマニア型の、女なら誰でもハァハァするタイプの百合キャラなんかじゃないんです。彼女が狙うのは頼子だけ。頼子ラブ。その筋金入りの頼子好きなところが微笑ましくて楽しかったです。
あと、特筆すべきはシルヴィですね。1巻では完全な敵キャラとして登場した彼女の、3巻での変わりようがすごいです。キスシーンまで通算2回もある上に、頬を染めての大告白。微(でもないか?)エロ担当としても大活躍だし、命を賭して頼子について行こうとするけなげさも興味深いです。

ただですね、この3巻でのシルヴィの本当の見どころは、こうした嬉し恥ずかしイチャイチャ部分ではなく、強烈な凄味を帯びた第24話外伝にあります。エロ漫画もかくやという官能的な展開の直後にシルヴィの脳裏をかすめる、あの凄絶な衝動(p. 188)といったら! これよ、これですよ。壊れた蛇口みたいにお色気シーンを垂れ流して終わりではなく、こうして和風伝奇らしい「恐怖」できっちりとお話を引き締めていくという描き方がとてもよかったです。

2-2. その他のシチュエーションについて

なんと男子同士のキスシーンもありです。で、それもやっぱり甘やかなイチャラブだけでは終わらない、ある種のコワさをはらんでいたりします。さらに、「麒麟(きりん)」と「虚颯(こりゅう)」の兄妹にはインセストの香りもしますし(妹の麒麟が兄・虚颯の『角』をウテナの剣のように引き抜いて使うシーンなんて、フロイトさんが見たら大喜びしそう)、とことん「規範通りの恋愛/性愛関係」が出てこない漫画なんですね、今んとこ。そこがおそろしくユニークだし、大好きです、こういうの。

まとめ

スリリングな和風伝奇としてもとても面白いし、凄味をはらんだクィアな愛(百合含む)がたっぷり見られる漫画としても最高。これだよ、こういうコワくてゾクゾクして時々微エロな和風伝奇百合展開が見たかったんだよ! というわけで、おすすめ。