石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『たまとたまと(1)』(ちんじゃおろおす、グリーンアロー出版社)感想

たまとたまと 1 (YA!コミックス)

たまとたまと 1 (YA!コミックス)

巫女と女子高生の同棲(?)ラブストーリー。やや荒削りな面も

17歳の女子高生「葵」が、葵を追って村を出てきた巫女の「たま」と同居を始めるという、ライトな和風伝奇百合漫画。幼く見えるたまの中にはたまの知らない人格「サイ」が眠っており、たまはサイが表れるときだけセクシーダイナマイツなナイスバディキャラに変身するという設定です。微笑ましい百合百合しさに加えて、同性愛への偏見をさっくり否定してみせるシークエンスもあったりして、楽しく読めました。ただし、お話の流れや画面構成、台詞回しなどに関しては、かなり荒削りな印象も否めません。とりあえず様子見といった感じで2巻を待ちたいと思います。

百合百合しい部分について

葵とたまが幼い日にかわした結婚の約束や、現在のキス(厳密にはサイが相手ですが)の場面など、どれも可愛らしくてよかったです。今のところたまが一方的に葵を慕っている状態ではありますが、同性同士は変だと言われた葵が

私は――――…そんなの関係ないと思うよ?
だってそんなの誰が決めたの?
好きって気持ちはいろんなカタチがあっていいと思うよ

と言い切るシークエンス(p. 64)があったりして、安直な「禁断萌え」みたいなお話にはならなさそうなのも嬉しいところ。あくまでほのぼの展開なので、燃えるような恋が見たい方には向かないかもですが、それはとりあえず今後に期待ということで。

ただし、このへんは荒削りかと

今のところまだお話が設定に振り回されている感があると思います。たまにかけられた「呪い」や多重人格の設定を小出しにしているだけで、ドラマが少しもなめらかに動いていない気が。画面も人物の顔面アップとバストアップばかりで、絵的に単調だと感じました。また、校正ミスなのか、ところどころ日本語の意味が通じないところも気になります。たとえば、以下のようなあたり。

イキモノは少ないと 争い 妬み 飢え…あるだろう

助詞を省きすぎて、何が何だかわかりません。どこのピジン日本語ですかこれ。

うそではない
村の連中はそれに
恐れて「首輪」まで
つけやがった

「それ『を』恐れて」、という言い回しならわかるんですが、「それ『に』恐れて」というのはなんだか変。ちなみに"in addition"という意味での「それに」かとも思ったんですが、だとしても前後の文脈と辻褄が合わないんですよ。

でも
コイツは受け入れた

村人
イキモノの
感情を
すべて一人で

やっぱり助詞が省略されすぎててよくわかりません。村人「と」? 村人「の」?

このへんのピジン日本語を日本語に直して、人物アップ以外の絵を増やし、単にオカルト設定を羅列するだけではないエピソードを増やしていけば、もう少しお話が生き生きしてくるのでは、と思います。

まとめ

ホモフォビアもないし、百合部分もほのぼの、ちょっと和風伝奇な風味もあって楽しく読めました。が、設定ばかりが先走ってストーリーがぎくしゃくしているところや、画面がキャラのアップ主体で単調なこと、時々日本語のてにをはがおかしくなるところなんかはマイナスだと思います。2巻以降でこれらの点が改善されてくれると、もっと嬉しいです。