石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『マイナスりてらしー』(宮下未紀、一迅社)感想

マイナスりてらしー (IDコミックス 百合姫コミックス)

マイナスりてらしー (IDコミックス 百合姫コミックス)

テンポの良い極貧百合コメディ。オチのラブさが最高

没落した名家のお嬢様「康光(やすみ)」と、お嬢様を支えるメイド「美晴(みはる)」が織りなす極貧百合コメディ。「テンポの良さ」と「メリハリ」と、「極上のハッピーエンディング」の3要素が揃った、すばらしい百合漫画でした。非エロの作品でありながら、さりげない抱擁や手つなぎに表れるレズビアン・エロティシズムはそんじょそこらのエロ漫画をはるかに凌いでいると思います。また、告白シーン(ですよねアレは)も心憎くてよかった! 極貧を呼ぶ「マイナス金運」という設定もコミカルで面白かったです。

テンポとメリハリ、そして極上のハッピーエンディング

「マイナス金運」という独自の設定を生かしたテンポ良い話運びがまずとても面白いです。最初から最後まで一瞬たりとも失速しない、たたみかけるような展開だったと思います。また、単に少女たちの可愛らしさを描くだけでなく、彼女らが時折見せる凄みや決意などできっちりとメリハリをつけてあるところも楽しかったです。具体的には、たとえば第1話で借金取りを睨む美晴の表情とか。他には康光の矜持や、そして美晴のためならその矜持をかなぐり捨てるところとか。

このようにお話の見せ方が鮮やかで、しかもキャラが生き生きしているので、それだけいっそうハッピーエンディングのインパクトがどかんと胸に響いてきます。最終話(第9話)はどこをとっても好きですが、それでもどこかひとつだけよかったところを選べと言われたなら、あたしは最後のコマ(p. 144)の康光の台詞を挙げますね。なんという完璧な大団円かと思いました。

レズビアン・エロティシズムについて

表面的にはたいへんプラトニックなお話なのですけれど、それでいてこの色っぽさというのがすごい。何気ない抱擁とかつながる手と手とか、今にもキスできそうな距離での表情とか、たいへんにエロティックでした。台詞回しも気が利いていて、紋切り型のラブストーリーとは違う切なさと甘酸っぱさがあり、楽しめました。

告白シーンについて

2回ある告白シーンの2回ともすばらしかったです。ただの惚れた腫れただけでは終わらない、「覚悟」のある言葉に胸打たれました。絵もよかった。特に、2回目の告白でのあのラブラブ見開き絵が秘めやかに第1話の扉絵と呼応しているところとか、ぐっときました。

欲を言うと

委員長と巫女さんが物語の進行役でしかないところが、ちょっともったいない気がしないでもありません。ただし、ローラーコースター映画のような勢いを持つお話だけに、こうした説明係的なキャラはやはり必要ですし、1冊できっちりとお話をまとめるためには敢えてこうするしかなかったのかも、とも思います。

まとめ

サクサク進むストーリー、こぼれるような愛とエロティシズム、独自の「マイナス金運」設定とそれが生み出す笑いなど、どこをとっても非常に楽しく読めました。結末の強烈なラブさが特によかったです。めっちゃくちゃおすすめ。