- 作者: 石見翔子
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2006/09/27
- メディア: コミック
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優しくてちょっと切ない姉妹百合、堂々の完結。
ネコミミ姉妹百合漫画『スズナリ!』の最終巻。伏線をきちんと回収した上で、優しくてちょっと切ないエンディングに着地する、とても良い1冊でございました。
「甘さ」と「かなしさ」のコントラストが絶妙
子どもの頃の楓と鈴のエピソードが1巻よりたくさん出てくるのですが、それが単なる萌えストーリーに終わらず、大切な伏線になっているところが良かったです。畳と床の間のはしっこだけが写っている(ように見える)あの写真の意味が後になってわかったときは、本気で目に涙がにじみました。
それらのエピソード以外でも、「鈴がいついなくなってしまうかわからない」ということがあちこちで少しずつ暗示されており、それによってお話全体が凛と引き締まった感じになっていると思います。あたしはよく「ただ甘ったるいだけの百合はいらない」みたいなことを言いますが、『スズナリ!』は基本的にはいちゃいちゃラブラブ(実際、この巻でも鈴はおねいちゃんにちゅーはねだるわほっぺは舐めるわ、大変なことになってます)のコミカルな話でありながら、「怖い」ことや「かなしい」こともきちんと押さえた作品であって、そこがとても好きです。甘さも毒も、コントラストがあってこそひきたつものですからね。
謎ふたつが綺麗に氷解
1巻を読んだ時点で謎に思っていたことがふたつありました。まずひとつ目は、楓と鈴(猫時代の)がなぜ離れ離れになってしまったのかということ。楓のあの両親が、マンションに引っ越すからと言って猫を捨てさせるなんてありえなさそうで、とても不思議だったんですよ。それが、2巻を読んでようやく謎が解けました。そうかそうか、そうだったのか。
昔から「家出していなくなってしまった猫は御嶽山で修行をしている」等々、愛猫を失った悲しみを癒すための民間伝承はいろいろあると思います。『スズナリ!』は、そういった伝承の新たなバージョンを確立してみせた作品だと言えましょう。「いなくなってしまったあの猫が、いつかネコ耳をつけた人間になって『おねいちゃーん』(あるいは『おにいちゃーん』)と言いながらニコニコして現れるかもしれない」と思うと、そんなこと絶対ないってわかってはいても、ふっと微笑みが浮かんできてしまいますから。
もうひとつの謎は、「鈴を人間にしてくれた神様はいったい何者?」というものでした。1巻p8を見ると、神様の1人称は「妾」ですよね。ということは女神様だと思うんだけど、いったいどんな女神がどういう縁で鈴に力を貸したのか謎だったんです。この謎については、2巻p110の絵で綺麗に種明かしがされていて、「参りました」と思いました。なるほど、そういう神様だったら、昔から日本全国で祀られてますもんね。養蚕の神様だったり、学業成就や子宝の神様だったりと、いろんなバリエーションがありますけど。
最終回(きららMAX掲載時の。つまり、2巻pp105-112に収録されているお話)について
なんといっても、最後のあのページが!いきなりあの1コマで「ほのぼの姉妹百合漫画」の範疇をぶっちぎりで越えちゃいましたね。しかも楓からですよ楓から! 楓にとって鈴がただの姉妹以上の存在になったことを示す、大切な1ページだと思います。
描き下ろし分(pp113-118)について
こちらは最終回以降の鈴と楓のエピソードです。1コマ目があれだってことは、あの後さらにもう1回してたんですか高村姉妹!? と思わず心拍数が上がっちゃいましたが、それはそれとして、最後の2ページでいろいろなことを思い出してしみじみしましたよ。1巻で夏実が桜の花びらと願い事の話をしてたこととか、鈴が「おねいちゃんの手、鈴のといっしょだね」と喜んでいたこととか。可愛くてうれしくてちょっぴり切ない、良いエンディングでした。
まとめ
とても良い最終巻でした。すべて読み終えた今、恋でもないのに胸の真ん中がきゅーんと痛くてしょうがないですよもう。1巻を初めて読んだときには、あまりの面白さに「なるべく長く連載を続けてほしいなあ」と思ったものでしたが、今となっては「やっぱり、このタイミングで終わるのがベストなんだろうな」と感じています。うまく言えませんが、「これで円環がきちんと閉じられ、お話が完成した」という感じ。はー、堪能したー。