石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

小説『ヴァーティゴ』(深見真、幻冬舎)感想

ヴァーティゴ (幻狼ファンタジアノベルス)

ヴァーティゴ (幻狼ファンタジアノベルス)

戦闘用サイバネ美女が戦いまくる近未来警察小説(レズビアニズムあり)

2030年の東京を舞台に、戦闘用サイバネティックスで強化された美人刑事コンビが悪と戦う痛快バイオレンス小説。SF設定がみっしりと詰め込まれた一種のサイバーパンク活劇なのですが、それでいて根っこに泥臭さというか人間臭さがきっちり仕込んであるところがとても面白かったです。なお、深見作品らしくレズビアニズムや筋肉美女や銃器や人体破壊描写などもてんこもりで、そういう意味でもサービス満点。激しいアクション描写に血を熱くする一方で、ごく当たり前に同性とつきあうキャラクタたちの姿にほのぼのとなごみました。

泥臭さ、または人間臭さについて

SF設定満載の近未来小説でありながら、実は泥臭い人間賛歌を秘めた格闘小説でもある、という二重構造が楽しかったです。具体的には、レオが菜湖(なこ)に語った武術論が思わぬところで生きてくるのに目を見張ったということですけど。ちなみにこの世界のサイバネたちは弾丸をもはね返す強化ボディを持っており、格闘術も武器術もプログラムとしてインストールして学習できるという設定です。さらに、警察の捜査方法も、最新のテクノロジー(たとえば歩容認証システムなど)が多数使われていたりします。そうしたSFチックな描写のつるべ撃ちだけでもじゅうぶん楽しいのに、ここぞという場面で敢えて「人間の強さ」を強調してみせるところがたいへん面白かったです。

レズビアニズムについて

場の設定自体が「同性婚が合法化された近未来」とあって、主人公「夏目静香」の相棒「羽柴澪緒(レオ)」はレズビアンで女性と同棲中(Hシーンあり)だわ、静香にしてもなりゆきでレオとレズビアンカップルのふりをして潜入捜査する(キスシーンあり)ことになるわ、おまけに静香にも(ネタバレ防止のため伏せます)わと、同性愛要素がたっぷりです。細かいところでは、レズビアンカップルが多い喫茶店の名前が「レディ・マーマレイド」だったりするところにも個人的にウケました。そういう名前のウィメンオンリーナイトをやってるクラブがあったんですよ、昔、名古屋に。

ちなみにこの小説には、ゲイ男性のキャラもいれば、性同一性障害のエピソードもさりげなく出てきます。性的少数者の存在をいちいち特別視せず、むしろ特別視するほうがおかしいとする、といういつものスタンスが心地よいです。

その他、深見作品らしい要素について

まず人体破壊描写がすごいんですよ。特に、戦闘用サイバネ「ニコラス・チェン」の自殺の仕方に戦慄しました。夢に見てうなされそう(誉め言葉)。あと、『武林クロスロード』を思わせるような「ウェイトレスが全員現役ボディビルダーな中華料理屋」や、サイバネ用の巨大な(40mm)アンチマテリアル・ライフルからおなじみAK47まで多彩な銃器の数々も楽しめました。格闘描写もよかった。静香の詠春拳やレオの「趣味の悪い」プロレス技など、戦い方がキャラの性格をしっかり反映していて、ニヤニヤさせられました。

まとめ

一言で言うと「スカッと読めて、後に余分なものを何も残さない痛快娯楽活劇」。サスペンスフルなアクション小説であると同時に、レズビアンを初めとした性的マイノリティが当たり前に登場する近未来小説でもあります。位置づけからすると『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』と『ゴルゴタ』の中間ぐらいでしょうか? バイオレンス描写が苦手な方や深見作品特有の「濃さ」が合わない方にはおすすめしませんが、これらの2作品が好きな方なら買いだと思います。