石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

小説『ヤングガン・カルナバル グッドバイ、ヤングガン』(深見真、徳間書店)感想

ヤングガン・カルナバル グッドバイ、ヤングガン (トクマ・ノベルズEdge)

ヤングガン・カルナバル グッドバイ、ヤングガン (トクマ・ノベルズEdge)

納得の最終巻。おっもしろかったー!!

高校生の殺し屋(ヤングガン)ふたりが主人公の痛快バイオレンス小説、ついに最終巻です。あれだけたくさんの伏線をどう回収するのだろうかとワクワクドキドキしながら読んだのですが、いや、お見事のひとこと。もっのすごく納得し、もっのすごく心揺さぶられ、結末ではまるでカラカラの喉でビールを飲み干した瞬間のごとく「くーっ!」と唸ってしまいました。痛くて苦くてときどき甘くて、最高。最高っすよこの小説。レズビアン要素やバイオレンス要素も相変わらずの冴えっぷりですし、何より青春小説としてすばらしい切れ味です。人気シリーズをしめくくるにふさわしい、充実の1冊だと思います。

青春小説としての『ヤングガン・カルナバル』

これまでもそうでしたが、今回は特に、青春小説としての色彩が強くなっていると思います。『ヤングガン・カルナバル』は、決してスーパー高校生の勧善懲悪物語なんかじゃないんです。塵八と弓華はあなたであり、わたしであり、そしてヤングガンとはひとつの心の状態なのだと思います。それが顕著なのは、弓華のこの台詞(p. 256)。

「エジソンがいなくても、世界中に電球は広まってた。あんたの考えが本当に正しくて、本当に必要なものなら、それは受け継がれるし、これからも広まっていく。誰か一人でどうこうって話じゃないんだ。(引用者中略)もちろん、偉大な人間ってやつはいるんだよ。でも、あるアメコミ作家がこう言ってた。『大事なのはこの世界に生きる一人一人がすでに偉大だと気づくことなんだ』って」

そして、その直後の塵八と弓華のこの会話(p 258)。

「なあ……」

撃ちながら、弓華は訊ねる。

「俺たちが死んでも、誰か別の高校生が俺たちの役割を演じるのかな?」

「だと思う」

塵八は即答した。

「俺たちの前にも殺し屋はいた。何千年も前から殺し屋はいた。俺たちが死んだあとも、殺し屋の歴史は続いていく。俺たちじゃない。もっと偉大な誰かが」

これらの部分をあたしは、「痛々しく青臭い(誉め言葉です)怒りを抱えて世界と格闘する若者というのは何千年も前からいる。これからも続いていく。そして、その一人一人が偉大なのだ」ということだと受け取りました。物語と読み手との距離が一気に縮まる名場面だと思います。

苦くてつらい結末にも、「やはりこれは青春小説であったのだ」と納得させられました。1巻プロローグと比べて読むと、そのことが一層よくわかります。血と硝煙の匂いのたちこめるアクション小説でありながら、実はロマンティックな思春期物語でもあるという二重構造が、たいへんツボでした。

伏線回収について

「伏線が巻をまたぐ」という特徴を持つシリーズだけあって、最終巻まで未回収の伏線はかなりたくさんあったと思うんです。ヴェルシーナ・ファイルとか、塵八の両親が殺された理由とか、ゲイ恋愛とか、レズビアン三角関係とか、弓華VS琴刃の因縁とか。それが小気味いいぐらいにビシバシと片付いていきます。中でもあっと言わされたのは、明憲というゲイキャラの使い方ですね。あとは伶の成長・変貌ぶり。また、弓華と琴刃のしがらみが、意外な、それでいてやたらと説得力のある方向で片付いていくところにも驚かされました。

バイオレンスとアクションについて

早くもp. 12にしてたいへん暴力的な方法で人が殺されます。もちろんそこ以外でも、キャラ達は敵も味方も切られ、撃たれ、撲られ蹴られ、酸鼻を極める拷問を受け、あっけなく死んでいきます。そうだよ、こうでなくっちゃ! 「良識あるオトナ」はこうした残虐描写に眉をひそめるかもしれませんが、そんな人はまず『図説 死刑全書』(マルタン・モネスティエ、原書房)『酷刑』(王永寛、徳間書店)でも読んで、人間が現実世界でいかに残酷なことをやっているかを知るべきでしょう。『悪魔学大全』(ロッセル・ホープ・ロビンズ、青土社)の、ヨーロッパの魔女狩りで行われた拷問についてのくだりでもいいですね。人間とは結局こういうものでしかなく、YGCはその事実をむしろ親切なぐらいマイルドに提示してくれている小説だとあたしは考えています。

相変わらず映画的な戦闘描写もよかったです。今回は室内戦が主体となるのですが、息詰まる緊迫感とケレン味あふれるアクションとが違和感なく絡み合い、読むほどにアドレナリンが血管を駆け巡りました。誰が死に、誰が生き残るのか最後まで読めないまま、一気に読ませてもらいました。

百合/レズビアン要素について

ベッドシーンももちろんいいのですが、それはさておき、上の方でも触れた三角関係の結末がばつぐんに面白かったです。まさか、こんなオチのつけ方があったとは……! 久遠伶が、他のもう少し大人向けの深見作品に登場するようなぐっとくるレズビアンに成長していて、「さすが弓華は目が高い」と思わずにはいられませんでした。

まとめ

丁寧な伏線回収、それでいて破天荒なアクション、計算されつくしたエンディングと、非常に密度の高い1冊でした。レズビアン小説としても、バイオレントなのにロマンティックな青春小説としても超おすすめ。これでヤングガンたちの物語が読めなくなってしまうのは寂しい限りですが、ここまできれいな着地点に到達されては、もう納得するよりほかありません。上では書ききれなかったけど、琴刃がだんだん変態お姉さんと化していくところとかも好きだなあ。ドラマCDとかぶるものがあって。とにかく、面白かったです!