石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

PCゲーム『蒼い海のトリスティア』(工画堂スタジオ)レビュー

蒼い海のトリスティア 限定DVDパック ~ネオスフィア予習編

蒼い海のトリスティア 限定DVDパック ~ネオスフィア予習編

発明で街を発展させるアドベンチャーゲーム

面白かった! はまりすぎて徹夜までしてしまい、クリックのしすぎで右手人差し指の付け根が痛いです。

この『蒼い海のトリスティア』は、非18禁の名レズゲー・『リトル・ウイッチ・パルフェ』『リトル・ウイッチ・レネット』に続く、工画堂スタジオのADVゲーム。「発明品を売り込んで街を発展させていく」というゲーム部分は前作2本よりもさらによく練られており、何度もやり込んで楽しめる作りになっています。女のコ同士の恋愛についても、キスありハグありガチな人ありで、「長らく積みゲにしていた自分は馬鹿だった」と反省いたしました。アダルトではない良質の百合/レズゲーをお探しの方におすすめです。

パルフェ・レネットとの違い

『パルフェ』『レネット』『トリスティア』の3作品の特徴をそれぞれ書き出してみると、こんな感じになります。

パルフェ
恋愛要素は3作中2番目の濃さ(キスシーンあり)。ただし、お店経営は単調でダルく、クリアに30時間ぐらいかかる。
レネット
恋愛要素は3作中でいちばん濃い(身体の関係あり)。クリアにはパルフェほど時間がかからず、魔法の習得もある程度システマティックに行えるようになっている。
トリスティア
恋愛要素は3作中でもっとも少ない(が、ガチなキャラクタがいるし、キスシーンもあり)。ADVとしては3作中でもっともバランスがとれており、ゲーム的な部分が一番面白いのはこれ。

まとめると、相思相愛ガチ恋愛が見たい人ならレネットが、純粋にADVとしても面白いものをやりたい人ならトリスティアがいちばんのおすすめということになります。でもレネットをやるならパルフェからやった方がパルフェ視点とレネット視点のちがいが楽しめますし、結局、発売された順番通りにパルフェ→レネット→トリスティアの順でやるのがいいのかも。今ならパルフェとレネットはお買い得なパックになってますしね。

レズゲー要素について

わかりやすく言うとナノカ(主人公)総受けのゲームなんですが、パルフェやレネットと違ってナノカはかなりの「ニブチン」(ナノカの相棒のスツーカ談)なので、そこは覚悟しておきましょう。ちなみに、キスシーンは全部で3つ。コミカルなのと、切ないのと、予想外の不意打ちキスです。うち2つはCGがあります。さらに、ハグのシーンが2つ。こちらはCGなし。告白シーンも複数あり、声優さんの迫真の演技が胸に迫りました。

あと、女のコ同士のキスだの恋だのについての周りの反応が、驚きつつもあたたかく見守っている感じなところがよかったです。街の人の反応も面白いし、ナノカに相談されたスツーカやラファルー(ナノカの工房の居候)が、シェイクスピアやテニスンの詩をほいほい引用し出したりするのにはたまげました。この作品では、女のコが女のコを好きになることを「一時の気の迷い」とか「なんか男女の恋とは違うもの」って風ではなく、ちゃんと「恋」としてとらえてくれてるんだなあと感じて嬉しく思いました。

ADVとしての「トリスティア」

パルフェとレネットが、「お店を開いてお客さんを待つ」という受け身なものだったのに対し、トリスティアは「自分で発明した商品をいろんなお店に売り込み、それによって街を発展させる」という、いわば攻めのゲームです。仕事の成果がお金だけでなく街の風景や人口にも如実に現れるので、うまくいったときの達成感といったらありません。街の発展にしても、アイスクリーム製造機を売り込めばアイスクリーム屋ができ、地ビールを売り込めばバーが出現するという細やかさなので、見ていてまったく飽きません。慣れれば戦略的に「この地区は工業地区に、この地区は飲食店が多い町にしよう」などと街をデザインすることもできます。

街に公共施設を作ることができるのも、前作2つと違うところ。作った施設の種類により、イベントやシナリオが変化したりします。デートイベント(当然、女のコ同士)や入浴シーン、海水浴のシーンなど、嬉しいイベントがたくさんついてきますので、商売だけでなく公共施設建設にも力を入れましょう。

ちなみに前作2本と違い、移動ではターンを消費しないので、売り込みや材料の入手では心ゆくまで街の各地区を歩き回ることができます。のんびりと新しい店を見て回って楽しむもよし、サザエさんの三河屋さんのごとく各商店を訪問しまくって商いにいそしむもよし、です。

ただ甘いだけじゃないよ

「女のコをただフワフワと甘ったるいものに美化してテケトーにいちゃいちゃさせて終わり」でないところもよかったです。たとえば、徹夜明けのナノカとスツーカのこの会話のシーン。

スツーカ「…………………ナノカ……キミ、臭いぞ」

ナノカ「え? う、うそっ?……」

スツーカ「酢をかぶった山羊みたいな臭いがする」

ナノカ「…………!!!!!」

ナノカ「……くんくん。そ、そんなことないよう。スツーカ、鼻良すぎ……!」

スツーカ「とにかく風呂にざぶんと入ってイイ匂いをさせとけ」

ナノカ「いまから……? めんどくさいなぁ……。服を全部着替えるから…だいじょうぶだよ」

スツーカ「だめだ! そういうことに手を抜いたら、女なんて無残なもんだ」

(注:ナノカが風呂に行った後で)スツーカ「やれやれ……なんて様だ。磨けば、男が鈴なりになる素材なのに……全く」

スツーカは狼型の人工生物だから異様に鼻がきく、ということを割り引いても、「そういうことに手を抜いたら、女なんて無残なもん」というのは本当にそのとおりですよね。

それから、街の人々の態度がすげえ現金なところもよかった。街の復興がうまく行ってるときはナノカをちやほやするのに、ひとたびトラブルが起こればすぐ手のひらを返すんですよ、彼らは。すんごくひどいことを言ったり、工房を囲んで石投げたり(比喩ではなく)しちゃうんですよ。トリスティアは自治領であり、帝都からきたナノカは街の人たちからすれば外国人なので、こうした摩擦はむしろ当然なんですね。一方、それを見た帝国人は帝国人で「こんな恩知らずな、ばーばりあんの生息する野生地帯」とトリスティアを罵り出したりしており、そのあたりの人間くささが実に良いと思いました。外部の人間が町興しにたずさわって、こうしたトラブルもなしに「街の発展がうまくいってよかったね☆ナノカたんありがとう♪」だけで終わるわけはありませんものね。

こういう風に人間のみっともないところや残酷なところもきちんと描いているからこそ、お話の中のコミカルな部分や前向きな部分、キュートな部分がより鮮やかに浮かび上がってくるわけで、そこが凡百のギャルゲや百合ゲと違うところだと思いました。ゲームでも映画でも小説でも、明を描くには暗を、善を描くには悪を描かねばならないものですが、そのへんの匙加減がたいへんによくできた作品だと思います。なお、お話の全体的なトーンは終始コミカルで、ナノカの発明した「マイ労働歌」やさいとうたかをの『サバイバル』のパロディ、『美味しんぼ』のパロディなんかに笑わされまくったことを一応ここに申し添えておきます。パッケージ裏にもあるとおり、「笑いと感動の旋風」ですよこれは!

まとめ

「相思相愛悶絶ラブラブ要素」という点では、残念ながらパルフェやレネットの方が上です。でも、「女のコが女のコを好きになるお話」ということであれば、じゅうぶんしっかり描けていると思います。ADVとしては3作中でいちばんの出来であり、作業が苦痛でないどころか楽しすぎて徹夜してしまうほどでした。前作2本のファンや、ガストのアトリエシリーズのような「商品開発&経営」ものが好きな人、エロゲーでないレズゲーをお探しの人あたりに強力におすすめ。