石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

小説『荊の城(上・下)』(サラ・ウォーターズ、東京創元社)感想

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

波瀾万丈のレズビアン・ラブ・ストーリー

女性同士のラブストーリー/歴史小説/ミステリ/ピカレスク小説/クライム・サスペンス等々、さまざまな読み方ができる、緻密にして濃厚な大傑作。自分はこれを「極上の冒険小説だ」と受け止めました。というのは、この小説にはどんでん返しに継ぐどんでん返し、絶体絶命の危機と決死の脱出、復讐と愛などがみっしりと詰まっており、そんじょそこらのアクション小説が裸足で逃げ出すダイナミックな面白さにあふれているからです。もちろんサラ・ウォーターズのことですからレズビアニズムの描写もばっちり(しかも添え物じゃなくメインディッシュですよ!)。波瀾万丈のレズビアン・ラブ・ストーリーが読みたいなら、何をおいてもこれを読むべきです。

あらすじ

「19世紀半ばのロンドン。17歳の泥棒娘スウは、顔見知りの男『ジェントルマン』から、とある城館に住む令嬢モードの財産を騙し取る計画を持ちかけられる。首尾よく侍女になりすまして城館に入り込んだスウだったが……」

あああ、これ以上はとても書けない。ここから先では大きな計画が予想もつかない方向に転がって行き、一瞬たりとも目が離せない展開が相次ぎます。読者は「一番の悪党は誰なのか」「スウとモードはどうなるのか」という疑問を胸に、夢中でページをめくりつづけるより他ありません。サラ・ウォーターズらしい精緻なヴィクトリア朝イギリスの描写にしっかりと支えられた大仕掛けの数々を、ぜひお楽しみください。

スウとモードについて

このふたりの愛がねー、激しくて、いいんですよ。物語はスウ視点とモード視点が入れ替わりつつ進められていくのですが、同じ出来事をスウ側から見たときとモード側から見たときの細かな違いなんかがとにかく深いんです。ふたりが少しずつお互いにひかれていくところも、やがてある理由から強烈にすれ違ってしまうところも、読んでてのたうち回るほどよかった。フワフワ甘甘の、いわゆる「百合ん百合ん」な展開だけが女性同士のラブストーリーじゃないぜ! こんな風な、ジェットコースターみたいにスリリングなお話だって作れちゃうんだぜ! ……というお手本のような作品。ちなみに官能の面でも一級品ですよ、ええ。

その他

他にもここが面白かった、あそこが面白かったという点は山のようにあるのですが、こんなすんごい小説のネタばらしなんて、恐れ多くてとてもできません。そこで、ヒントだけ。

下巻最終ページの、最後から6行目と5行目の会話。まさしくこの会話を読むためにだけ、自分はこの分厚い小説を読んだのだと思いました。あの伏線もあのエピソードも、ラスト近くの怒涛の展開も、すべてこの部分を味わうためにあったんだと。最後まで「やられたー」「すげー」と唸らされっぱなしの、よい小説でした。

まとめ

緻密にして壮大な、手に汗握るレズビアン小説。読むのに半日かかる方には半日、一日かかる方には一日、一週間かかる方には一週間の幸福な時間を約束できること間違いなしの力作だと思います。