石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『リゾートタウンの殺人』(サンドラ・スコペトーネ[著]/安藤由紀子[訳]、扶桑社)感想

リゾートタウンの殺人 (扶桑社ミステリー)

リゾートタウンの殺人 (扶桑社ミステリー)

やや残念な最終巻

レズビアン探偵ローレン・ローラノシリーズ第5弾。休暇でロングアイランドを訪れたローレンが、連続殺人事件に巻き込まれます。「同性カップルの中年の危機」という前巻以来のテーマがきめ細かく追われる一方、プロットは弱く、悪役の掘り下げも浅め。レズビアン小説/カップル小説としてはともかく、ミステリとしてはどこか息切れ感の目立つ最終巻となっています。

カップル小説として上質

前作で年若い浮気相手アレックスとの情事が露見してしまったローレン。本作は、キップとともにカップル・カウンセリングを受けたりして「なんとか事態を収束」(p. 9)させた後のお話となっています。収束とは言ってもふたりの間にはいまだ微妙なすきま風があり、一触即発の緊張状態。会話の中の小さな棘や思惑のすれ違いなどにみられるディテールの積み上げが、物語を静かに推進させていきます。読んでいて、ちょっとアン・タイラーの小説のほろ苦さを連想したりしました。レズビアン小説としてのみならず、カップル小説として上質だと思います。

ミステリとしては今ひとつ

『リゾートタウンの殺人』は、成人女性を狙う連続殺人と、不審な子供の事故死との関連をあばく物語。ローレンの聞き込みの後、各容疑者の3人称による短い章をさしはさむというこれまでにないスタイルで書かれています。フーダニットのミステリのはずなのですが、悪役の造形が安っぽく、プロットも意外性に欠ける感じ。ローレンの陥る危機も予定調和的で、大詰めもカタルシス不足。

シリーズ第5作とあってついに作者も息切れしたのかと思ったところ、スコペトーネ本人がインタビューで以下のように語っているのを見つけました。

ニューヨーク・シティーや女性探偵について書くことは好きでした。同じ人たちを何度も何度も書くことは好きではありませんでした。実際、4巻まででとても疲れていたのです。その時点(訳注:もともと単発だったローラノ物をシリーズ化すると契約した時点のこと)ではローラノ物の本は2冊でした。わたしはいつも言っていたのですが(そして今でもそう信じているのですが)、ひとつのシリーズは4冊以上続けるべきではありません。でも、お金が必要だったのです。

I liked writing about NYC and a female PI. I didn't like writing about the same people over and over. In fact, by book four, I was very tired of it. But that time my contract was a two book deal for Laurano. I'd always said, (and I still believe this) that a series shouldn't run more than four books. But I needed the money.

この「疲れ」が、本作の謎解き部分の詰めの甘さとなって表れているのかもしれませんね。

同じインタビューの別の箇所によると、スコペトーネはローレン・ローラノ物で「レズビアンの関係は基本的に異性愛のそれと似たようなものと示したかった」とのこと。その意図は、シリーズのどの1冊を取ってもあますところなく達成されていると思います。それだけに、最終巻のミステリまたはクライム・ノベルとしての失速感が惜しまれるところ。これならいっそ4巻までで大団円にしてくれればよかったのに。

まとめ

大人のレズビアンのほろ苦いカップル小説としては秀逸。しかし、ミステリとしては首をひねる出来映え。無理をして全5巻にせず、もっと短いシリーズにしてもよかったんじゃないかなー。