石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『Alice Quartet OBBLIGATO』(藤枝雅[画]、源久也[画]、MoonPhaze[原作]、角川書店)感想

Alice Quartet OBBLIGATO (角川コミックス)

Alice Quartet OBBLIGATO (角川コミックス)

洋服屋さんが舞台の優しい漫画(ある意味型破りな百合あり)

面白かった! 『Alice Quartet OBBLIGATO』は、4人のデザイナーの少女たちがユニットとして活躍するお洋服屋さん「Alice Quartet」を舞台とするお話です。キャラたちの可愛らしさや仕事への情熱、白黒のメリハリがきいたスタイリッシュな画面などがとてもいいし、これだけ優しく静かな雰囲気の漫画でありつつ実は「型破り」な百合作品でもあるところが素晴らしいと思いました。

『Alice Quartet OBBLIGATO』のここが型破り

1. オーナーのぽそりと言う台詞

この漫画の中で唯一ガチな人がオーナーです。彼女は友情以上の物を感じているまきのに対して、「まきのんは今期も可愛かったのよ〜(はぁと)」「こーしてまきのんに元気をわけてもらえば私はすぐにでも復活なのよ〜(はぁと)」などと言って抱きついていたりします。

もしそれだけで終わっていたら、この人はよくある「テンプレ百合微エロ担当キャラ」にすぎないと思うんですよ。そこそこ面白くはあるけれども、もはや陳腐な感じは否めないタイプのキャラですね。

ところが、それだけでは全く終わらないんですよこの人は。とにかくpp123-124を見てください。詳しいことは伏せますが、

  • 真顔に戻ってまきのんを気遣うシークエンス
  • テンプレ百合ネタっぽい台詞で大仰にふざけてみせながら、まきのんに気付かれないようにわざとぽそりと言う台詞

……このふたつがもう最高で、「これは新しい!」と唸らされました。ここぞという場面で手垢のついた「型」から鮮やかに脱却して(いや、むしろ『型』を逆の意味でしたたかに利用して)さりげなく愛を描いてみせるというこの手法に、あたしは拍手を惜しみません。

2. 番外編での翠夏による悠ちゃん&まきのん評

悠ちゃんこと悠希は、中性的でカッコイイ感じの服をつくるデザイナー。本人もそういった雰囲気のある人なので、女のコのお客さんたちからキャーキャー言われて大人気です。一方まきのんことまきのは、フリルやレースを多用したデコラティブな服を作るデザイナー。服作りへの情熱のあまり暴走したりもしますが、基本的にはフェミニンなキャラクタです。で、そのへんに関して、翠夏のコメント(PP158-159)はこう。

悠ちゃんは優しいしかっこいいので素敵です。でも どーしてみんながきゃーって言うのかすーは不思議です
すーはまきのんの「生きザマ」の方がかっこいいと思います

つまりこの漫画って、「ボーイッシュなものこそかっこよくて、女のコに好かれる」という異性愛規範べったりの価値観を鵜呑みにしたりしていないわけです。フリフリの服を着て、愛らしいデザインのお洋服づくりに燃えまくるまきのんの生きザマだって、十分「かっこいい」わけです。百合を標榜しつつ異性愛規範から一歩も離れない作品も多い中で、この漫画は全然そうじゃないところが面白いと思いました。

ちなみに悠希についても、本編の方で、単なる薄っぺらなボーイッシュキャラとは違う「女のコとしてのかっこよさ」が描かれていて、そこもとてもよかったですよ。あの「エロカッコいい」服のインパクトは素敵でした。

まとめ

乙女たちの仲良しな世界を優しく描きつつ、新鮮な切り口での百合もあって、とても楽しい作品でした。いやー、よかった。