石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『GIRL×GIRL×BOY-乙女の祈り』(KUJIRA、双葉社)感想

GIRL×GIRL×BOY―乙女の祈り― (アクションコミックス)

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少女と少女と少年の、三角関係ものがたり

女子高生「風花」(ふうか/♀)は幼なじみの「利理」(りり/♀)が好き。利理はかつて風花をいじめていた「一太」(いちた/♂)が好き。そして一太は実は風花が好き、というちょっと変わった三角関係をめぐる少女漫画です。一見して「またなんちゃってレズの自己正当化話かよ」と思ってしまいそうな部分もありますが、全体を通して見ると決してそんな話ではないことがわかります。キャラの青臭さや帯の文言のしょうもなさなど、気になる部分はありますが、そこを乗り越えて読む価値がある1冊なのではないかと。

前半の暗雲

お話の冒頭ではキスやハグをする仲まで行っている風花と利理ですが、そんな風花に利理が投げかける台詞(p9、p19)がとにかく痛くて痛くて。

こういうのもうやめよう
(引用者中略)
あたしね 好きな男の子ができたの

風花は女の子だし 風花はさ なにか勘違いしてるだけなんだよ あたしとばかり居たから「友達」と「好き」っていうのがわからなくなってるんだよ

うおおおおお胸が痛えええええ。なんだこのリアル感はー!?
そして、ふられてからの風花の回想(p22)がまた辛すぎる。

わたしばかりが好きだった わたしばかり求めてた そういえば キスする時 利理ちゃんは ギュッと目をつむる

うっわー……。こういうのって本当に、なんちゃってレズの皆さんの定番パターンなんですよ。一応は女と付き合っておいて(それこそキスまでしておいて)、適当な男が見つかるとあっさりそちらに乗り換え、しかもまったく悪びれもしないというお決まりのパターン。男を捨てて別の男に乗り替えるんなら多少は覚えるであろう罪悪感も、女が相手だと

  • 女より男の方を優先して当たり前(だからワタシ悪くない!)
  • 同性への恋愛感情など一時の勘違い(だからワタシ悪くない!)

という文脈で回避されちゃうんですよね。ちなみに前半では他に、ふたりの関係を知った一太が「なんつ――不毛な…」とありがちな偏見を露呈しているところなんかも非常にうっとうしく、最後までこのノリだったらどうしようと思うほどしんどい展開でした。

後半の転換

利理のこの台詞(p104)を機に、事態は少しずつ変わっていきます。

知ってる? 同性同士の恋愛が抱えるリスクって
ラブホテルだって同性同士で入れない所もある
今の日本では婚姻関係は結べない
ずっと…ず――っと…一緒にいれば周りはおかしいと感じて中傷だってされるかもしれない
そんなことから風花は守ってくれる?!
お化け屋敷であたしを置いてったあんたが?!

前半で風花を捨てようとしたときのセリフとは、ちょっとカラーが違うでしょう。この後もう少し読み進むと、実は利理は風花を捨てようとしていたのではなく、離れることによって護ろうと考えていたのだとわかります。最終的にはこの3人の関係は、少しの痛みを残しつつも全員にとって納得がいく形に落ち着いて行くのですが、「好きな人同士が一緒にいるのが、結局はいちばん幸せなことだ」というテーマが伝わってくる、やさしいオチがよかったです。ホモフォビアも異性愛賛美も抜きで「さんにん」で幸せをつかんだキャラたちの姿には、素直に共感を覚えました。

ちょこっとひっかかったところ

  • 利理が悩み始めたきっかけのエピソードが、ただの「幸せな家庭でぬくぬく育ったお子様の悩み」に見えてしまい、いまひとつ共感できませんでした。あと、利理にホモフォーブの側の非を問う発想がまるでなく、「非難され家族から見捨てられるのがデフォルト」とひたすら思いこんでいるっぽいあたりもなんだかなあと。
  • 帯のキャッチコピーの「百合と彼女とノーマル男子によるありえない三角関係!!」という文章にもちょっと引きました。異性愛者をノーマル(正常)とする異性愛中心主義にはもううんざり。あと、♀×♀×♂の三角関係を「ありえない」と言いきってしまう想像力のなさにもうんざり。

まとめ

前半の「なんちゃってレズの自己正当化話」めいた部分さえ乗り切れば、後はじゅうぶん楽しく読める作品だと思います。やさしくあたたかなエンディングが特にいいです。利理の発想の青さや帯のヘテヘテさが気にならないと言えば嘘になりますが、そこで引かずに読んでみる価値のある1冊かと。