石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『ワイルドブーケ―花の咲かないこの世界で』(駒尾真子、一迅社)感想

ワイルドブーケ 花の咲かないこの世界で (一迅社文庫 アイリス こ 2-1)

ワイルドブーケ 花の咲かないこの世界で (一迅社文庫 アイリス こ 2-1)

マリみてとカリ城の劣化コピー

先日レビューした『.(period) 』(瑠璃歩月、一迅社)とともに一迅社文庫アイリスの創刊を飾るファンタジー百合小説……のはずなのですが、個人的にはこの作品、ファンタジーというより「『マリみて的世界』と『ルパン三世カリオストロの城』の劣化コピー」にしか思えませんでした。以下、順を追って説明してみます。

「マリみて的世界の劣化コピー」について

『ワイルドブーケ―花の咲かないこの世界で』のメインカップルは、アガパンサス王国の王宮使用人ジョーゼットと、隣国の王女デェリアナ姫。アガパンサス王に嫁いできたデェリアナをジョーゼットが世話するうちに、いつしかふたりの間に絆が生まれるというストーリーです。しかし、王国とか姫様とかいう設定がまるで生きていず、女のコ同士の関係はただの女子高の先輩後輩ノリ――もっと言ってしまえば「マリみて的世界の劣化コピー」――と化してしまっていると思います。

例1. のっけから「タイが曲がっていてよ」ごっこ

アガパンサス王国には未婚の娘は胸にブーケをつけるという決まりがあるのですが、のっけから

「ブーケが歪んでいる」

と言ってお姉さまにブーケを直されるシーン(p. 16)が。

いや、これ「だけ」なら「百合ジャンルとしてのセルフパロディ」と微笑ましく受け取れないこともなかったんですが……。

例2. 使用人がただの優雅な女子高生にしか見えない

ジョーゼットとモニカ、ローラ、そしてササはよくこの庭園で一緒に過ごす。花とお菓子の愛好会とでも呼ぼうか。それぞれの休憩時間をうまく調整してタイミングを合わせると、庭園や花畑の花を眺めながら、ちょっとしたお菓子を持ち寄ってみんなで食べるのだ。

断っておきますが、ジョーゼットもモニカもローラもササも王宮の使用人という設定なんですよ。こんな優雅な暮らしをしている使用人っていったい。どう見ても単なる女子高生の休み時間でしょう、これは。

例3. エピソードと設定の不協和音

食欲がない姫様に何か食べてほしいからとジョーゼットがした行動は「王宮の調理場にデェリアナを連れて行き、一緒にパンを作ること」。でも封建制度のもとでは料理なんていうのは下賤な労働者階級のすることであって、それを喜々として姫様にやらせること自体がもう「王国」とか「王宮」とかいう設定と噛み合っていないと思います。あと、デェリアナが最初パン作りを拒否する理由として「貴方の個人的な娯楽に私が付き合わされる理由なんてない」とか言っているのもなんだか変。一介の使用人が王族である自分に労働者階級の仕事をやらせようとしていることに違和感すら感じない姫様ってどうよ? 王族の威厳とか気品とかはどこ行ったのよ? 

要するにこれはただの「食欲のない先輩を励まそうと、女子高の調理室で一緒にパンを焼きました」的な現代日本の女子高生風エピソードでしかなく、そこがヨーロッパめいたファンタジー設定と壮絶な不協和音を醸し出していると思うんです。こんなことなら最初から女子高が舞台の日本の百合話にすればよかったのに、なんでガワだけばったもんのヨーロッパ調にしなければならなかったのか、よくわかりません。

「カリ城の劣化コピー」について

お話のクライマックスは、デェリアナと国王の結婚式にジョーゼットが乱入し、花嫁をさらって逃げるというもの。でも、

  • 「国の宝を盗みにまいります」と予告状を出す
  • 式場の窓からジョーゼット登場
  • デェリアナを抱いたまま、ロープにぶらさがってジャンプして逃げる

というあたりがどう見ても『ルパン三世カリオストロの城』の劣化コピー。いやカリ城の方が百万倍面白いのですが。結局、こういうことがしたいがゆえのファンタジー設定・王宮&お姫様設定で、だからこそ現代を舞台とする女子高生話にはできなかったのかもしれませんが、なんにしても中途半端すぎて目新しさに欠けると思います。いくら一迅社文庫アイリスの想定ターゲット層が十代の少女だとしても、ここまで「どこかで見たような女子高ノリのイチャイチャ&どこかで見たような花嫁奪取シーン」でお茶を濁すというのは、あまりにも読み手をバカにしすぎていませんか?

ただし、このへんはよかったです。

お話の根幹を成す「連邦国における国民繁栄のための婚姻促進法」という設定はユニークで、とてもよかったです。これは国民の恋愛を禁じて国家が結婚を管理するというもので、この法ゆえに女子は国が選定した結婚相手に対して拒否権を持てず、さらに女子同士が「必要以上に親密な関係になること」も禁じられています。ゲイバッシングのためによく持ち出される「同性愛は非生産的だからダメ」という屁理屈にもよく似た悪法だし、うちの日記のこのエントリあたりにも一脈通ずるものがありますね。ヒロインたちがこの「婚姻促進法」に異を唱えてふたりで一緒にいる道を選ぶあたりには、とても共感できました。

まとめ

恋愛と百合が禁じられた世界で少女ふたりが反旗を翻す、というお話の骨組み自体はとても好きなのですけれども、いかんせんストーリーの肉づけ部分に力がなさすぎるように感じました。設定と噛み合わない女子高ノリやどこかで見たようなクライマックスなど、残念な部分が多すぎると思います。ひょっとしたらファンタジーより現代百合で真価を発揮される書き手さんなのかも、と感じました。