石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ゆきの咲くにわ(1)』(たつねこ、一迅社)感想

ゆきの咲くにわ 1 (IDコミックス 4コマKINGSぱれっとコミックス)

ゆきの咲くにわ 1 (IDコミックス 4コマKINGSぱれっとコミックス)

可愛らしくてコミカルで、ほんのり怖い妖怪百合4コマ

主人公「社千尋(やしろ ちひろ、♀)」のもとに雪女少女「ゆき」が現れ、結婚を迫るという百合4コマ。千尋に迫り倒すゆきの姿はコミカルで嫌味がないし、ふたりの日常のさりげない「仲良し」感もよかったです。それでいて、時々妖怪譚としてのほのかな「怖さ」が仕込んであるところも面白く、今後の展開がとても楽しみです。唯一の難点は絵柄がやや古い(80年代風)ことですが、そのへんは好きずきかと。

コミカルな百合ものとしての『ゆきの咲くにわ』について

p. 120の、

息…っ
あたってる…!

のような非常にきわどい表現(読めばわかる)もけっこうあるのに、そこに無意味なあざとさが紛れ込まないところが面白かったです。エロと非エロの間の綱渡りが非常に巧みというか、「深読みするとたいへんなことになっているが、深読みしなければそうでもない」というダブルミーニング的な描き方がうまい作品だと思います。恋情(と欲情)をギャグで丁寧にコーティングした美味しいお菓子みたいな漫画、という言い方で伝わるでしょうか。

また、ド直球の恋情や欲情以外に、千尋とゆきのなんでもない日常生活の「仲良し感」の描写もみごとでした。2人でこたつに入ってくだらない話をしつつ、なんとはなしにさやいんげんの筋取りをしているところとか、口に出したら逃げてしまいそうなささやかでカジュアルな幸福感にぐっときました。

妖怪譚としての『ゆきの咲くにわ』について

これもすごくよかった。この作品においては、人外はあくまで人外で、「人外属性をくっつけただけの単なる萌えキャラ」なんかではないんですね。ゆき本人が時折垣間見せる凄味にもゾクゾクさせられましたし、何といっても「茴(うい)ちゃん」「小野ちゃん」のクワセモノキャラ2名がいい味出してます。伏線がこまめに張られていて、どうやらこの2人の正体がお話の重要な鍵を握っているらしいところもよかった。

絵柄はやや古め

千尋のヘアスタイルや表情など、わりと80年代テイストな描き方だと思います。それが悪い、というのではなく、人によって合う合わないがあるかも、という意味です。個人的にはDAICON IVのオープニングフィルムとか連想したりしました。萌え絵に慣れた目にはかえって新鮮、という見方もあり得るかも。

まとめ

コメディでありつつ、軽やかなきわどさと可愛らしい日常と、そしてゾクリとするような和風伝奇色を巧みにブレンドした4コマ漫画だと思います。絵柄は好みが分かれるかもですが、内容的には『スズナリ!』とかがお好きな方に合うんじゃないでしょうか。2巻以降もとても楽しみです。