石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

「楽園Le Paradis 第1号」(白泉社)感想

楽園 Le Paradis 第1号

楽園 Le Paradis 第1号

  • 作者: シギサワカヤ,日坂水柯,二宮ひかる,宇仁田ゆみ,中村明日美子,かずまこを,黒咲練導,竹宮ジン,売野機子,西 UKO
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2009/10/29
  • メディア: コミック
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女女・男女・男男恋愛をひととおりカバーする新雑誌

白泉社の、「オール読みきり&描きおろし 恋愛系コミック最先端」と銘打たれた新雑誌です。百合作家さんが多いのでためしに購入してみたところ、やはり全16編中4編が女性同士の物語でした。他は男性同士のお話が1編、残りは男女もの。百合ものでは中村明日美子さんのものがとてもよかったです。でも、全体を通して見ると、いちばんインパクトがあったのは二宮ひかるさんの男女近親もの「…ごっこ」かな。あの構成には「やられた!」と思いました。

女性同士のお話4編について

「立体交差の駅」(中村明日美子)

ひょんなことから駅で出会ったふたりの物語。クライマックスの主人公の台詞がダブルミーニングになっていて、一気にスパーンと視界が開けていくところがすごくよかったです。そこまでの各キャラの心理描写も楽しかった。一歩間違えばドロドロになりそうなのにそうならず、勧善懲悪にもなりそうなのにやっぱりならず、よく練られた軽さとコミカルさが終始保たれてるんですよ。とあるアイテムをめぐってのキャラふたりの会話とか、わかりすぎてつらすぎる感じなんですが、それだけにその後での転から結への流れは感動的。フルカラー1枚絵を扉ではなくラストに持ってくるというたくらみもすばらしかったです。

「コレクターズ」「mio post」(西UKO)

キレイめのラブストーリー「mio post」もいいんですが、個人的には「コレクターズ」の方が好きかなあ。こちらは本フェチと服フェチの似たものカップルを描く4コマ漫画で、百合というよりレズビアン雑誌(『フリーネ』とか『アニース』とかあのへん)に載っていても違和感なさそうな雰囲気が面白かったです。ほのぼのとラブいオチもキュート。

想いの欠片(竹宮ジン)

レズビアンの女子高生と、レズビアンかもしれない人妻の物語。この組み合わせを「悲恋」とか「なんちゃってレズ許さじ」とかいうありがちな文脈で消費していないのはみごと。つか、リアリスティック。主人公がただのいたいけな子どもじゃなくて、色々と見通したり達観したりしているところもいいですね。ちょっとだけ説明過多の感がないでもないですが、そのへんは人によって意見が分かれるかも。あと美人マスター(この人も同性が好きな人)がいい味出してるので、スピンオフでこのマスターさんの物語が描かれたら嬉しいなと思いました。

「…ごっこ」(二宮ひかる)について

ひとことで言うと男女の近親ものなんですが、ドキドキさせておいて一旦安心させ、そこからまた落とすという意地悪な構成にメロメロです。バンタム級のボクサーだと思ったらヘビー級のパンチが飛んできた、みたいな感じで、「参りました」と思いつつ気持ち良くノックアウトされることができました。最初のドキドキ部分が非常に淫靡なところもよかった。アンモラルなお話なので多少読み手を選ぶかもしれませんが、あたしは好きですねこういうの。つか、この1冊の中でこれが一番好き。

その他の作品について

以前、宮木あや子さんの『野良女』のレビューで、

  1. 付き合うとか、ましてセックスするとかがチョモランマの頂上にあるかごとき遠いものに感じられる
  2. 従って、いちいち「片思い」だの「告白」だのというベースキャンプを張って高地馴化しないと倒れる

みたいなヘタレな若年層向けのものばっかり読んでいると大人としては全身が痒くなる、と書きましたが、この「楽園Le Paradis」に関してはそういう心配は皆無です。いや、鮮烈な告白も、ティーンエイジャーの初々しい恋の成就も出てくるんですが、そこに変に幼稚なドリーム臭が漂ってないところがとてもいいんですよ。

まとめと蛇足など

豪華執筆陣は伊達じゃない、という感じで、どの作品もそれぞれに面白かったです。こういう雑誌が出てきたことで、

  • 100パーセント百合ものだけの雑誌
  • 男女もの主体で1〜2編が百合な雑誌
  • 百合あり男女あり男同士ありな雑誌

みたいに、女性同士の恋愛を扱う雑誌の多様性が増していってくれると嬉しいなと思います。あと、芳文社のアンソロ『つぼみ』が百合ジャンルの裾野を大きく広げたとしたら、この「楽園Le Paradis」は、百合というジャンルそのものの立ち位置を再解釈(さまざまな組み合わせの『恋愛』の中に当たり前に存在する、みたいな)してみせたという点が意義深いのではないかと。この雑誌は年3回刊行で、第2号は来年2月発売だとのことですが、2号を買うのが今からとても楽しみです。