天秤は花と遊ぶ (2) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
- 作者: 卯花つかさ
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2009/10/13
- メディア: コミック
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異性愛主義マンセーで終わる最悪エンド
ぐわー。最悪。久々に悪いもん見た。1巻は非常に百合百合しかったこの作品ですが、2巻ではメインカプと新カプ両方を使って「女同士では恋愛できない」というメタメッセージを打ち出したあげく、まさかのヘテロエンドに突入して行きます。『天秤は花と“遊ぶ”』というタイトルからそこまで見抜けなかった自分がうかつでした。要するにこの漫画は、「女のコ同士の想いは、揺れ動きながらの『遊び』に過ぎず、男女の関係こそが不動にして永遠」という物語だったわけです。相変わらず百合なシークエンスの色っぽさは群を抜いているだけに、余計にオチのがっかり度が半端ない感じ。こんなお話にモエモエしていた(1巻の時点で、です)自分がくやしい。
「女同士では恋愛できない」というメタメッセージ
2巻では新キャラ「愛華」&「リコ」という一種のカップル(というか親友)が出てきます。愛華はいわゆる女子校のお姉さまキャラのパロディのようなキャラで、リコはその冷静なツッコミ役。以下、リコとの関係について愛華が言った台詞(p. 116.)。
これを受けて愁は、自分と謡子との関係について、もし…男と女だったら付き合ってたかもね
と悩み出します(pp. 132 - 133)。女同士の友情か それとも男と女の――…
どうする? どうなるのが一番いいんだ?
うちのサイトのビューワー様なら、ここまでで既に異性愛主義がガンガンに打ち出されていることにお気づきでしょう。愛華も愁も、「女同士に『付き合う』という選択はない」と決めつけて疑いもしてないわけですからね。
いや、愛華の発言だけならまだわからないでもないんです。双方がシスジェンダー異性愛者で、異性としか付き合いたくないのであれば、ああ発言してもおかしくはありません。でも愁は、少なくともこの時点では異性愛者でも同性愛者でもないのに(性別未分化ですからね)、世の異性愛規範を無批判に受け入れて「女同士では恋愛できない」と決めつけてしまっているわけで、そこが納得いきません。いちレズビアンとしては、まるで「お前らに恋愛はない」あるいは「この世にレズビアンなど存在しない」と言われているかのようで、ものすごく嫌。
まさかのヘテロエンド
(以下ネタバレ)
以下、最終話で自分の恋心を自覚した愁の台詞(p. 165)。
はいはい、というわけで、やっぱり男を目指そう
この笑顔の隣にいるのが他の誰かじゃなくて自分でありたい 好き…だから――
- 性別が同じだと好きな人の「笑顔の隣に」はいられない
- 好きなら異性同士で付き合おう
というのがこの漫画の結論なわけですよ。がっくり。こんなものをわざわざAmazonに予約までして楽しみに待っていたのかと思うと、自分で自分の後頭部に跳び蹴りしたくなります。
百合なシークエンスの色っぽさ
ここだけは相変わらず素晴らしいんですよ。吸血をこばむ愁のために、謡子が自分の唇を軽く噛みきってくちづけする場面を最たるものとして、他にも萌えな描写がいくつか。1巻以来愁に片想いしているみそらもいい味出してましたし、愁が謡子にときめいた時の胸の苦しさなんかもよかったです。
だからこそ余計に、異性愛主義一色に染まった結末が納得いかないんですよ。これじゃ、id:Ry0TAさんがおっしゃるところの「カーミラ・パターン」そのものです。以下、壱花花WEBSITE「ニジセン」発表!(にかこつけて「自分語り」するよ!) - に し へ ゆ く 〜Orientation to Occidentより引用(強調は引用者)。
そう、『天秤は花と遊ぶ』においても、レズビアン的シークエンスはあくまで「観賞用」。オチでは同性愛がめでたく「成敗」され、異性愛の大勝利を高らかに歌い上げて物語は幕を下ろします。同性愛を異性愛より下に見ている百合好きさんには格好の萌え作品なのかもしれませんが、そうでない方にはまったく合わないでしょうね。僕は勝手に「カーミラ・パターン」と呼んでいるんですが(←ほんと勝手だな)、レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』のように、美しいモンスター的なレズビアンまたはバイ女性がノンケ女性を誘惑し、観客の前でさんざん官能的な女同士の情交を演じたのち、モンスターは成敗されノンケ女性は異性愛に戻る・・・という、レズビアンの存在は認めずにレズビアニズムのエロティシズムだけを楽しむために、ボードレールから村上春樹まで繰り返されてきた表現です。レズビアン的関係はあくまで「観賞用」なのです。
まとめ
「レズビアン・エロティシズムを『観賞物』として消費したあげく、結局異性愛の大勝利を宣言して終わる」という最悪の展開でした。百合が目当てなら、読む価値はほぼなし。『ノルウェイの森』のレズビアン描写とかを何の疑問もなくハァハァ楽しめる人向きの1冊だと思います。