- 作者: 卯花つかさ
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2009/04/11
- メディア: コミック
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「吸血症」の少女をめぐる百合話
血を飲まないと生きていけない「吸血症」の少女「琴乃緒愁(ことのお しゅう)」と、そんな愁にあっけらかんと血を提供してみせる「春日野謡子(かすがの ようこ)」の物語。ドキドキもんのキュートなラブストーリーです。愁の繊細な心の揺れと、謡子の天衣無縫な性格とがうまくコントラストをなしており、実に楽しく読みました。吸血鬼でなく吸血症の人間という設定がユニークだし、可愛らしいのに要所要所でしっかりとメリハリをきかせた絵柄もナイス。
愁と謡子のコントラスト
もの静かで猫かぶりな愁と、気さくで人なつこい謡子とのコントラストが面白いです。特に、距離を置こうとする愁に謡子が平気で近づいていって、無自覚のうちに愁のハートをわしづかみにしてしまうところがよかった。実は、百合もので吸血ネタということで、「またしても典型的な『異性愛者を誘惑するヴァンプでヴァンパイヤなレズビアン』イメージの再演かしら」と警戒しつつ読んだんですよこの漫画。ところがこの作品では、吸血する側の愁はむしろ奥手で消極的。血を吸われる謡子の方が、自らセーラー服の胸元のボタンをはずして
とそっと覆いかぶさる(pp. 53 - 55)という逆パターンのエロスがあったりして、鼻血噴くかと思いました。同じ吸血ものでもこの手があったかと、目の覚める思いです。ちなみに、こんな謡子にどんどん惹かれていく愁の心の揺れもちょう可愛くてすばらしかったので、みんな読んで悶えるといいと思います。愁 つらそう
私の血を吸って
私なら大丈夫だから 愁
「吸血症」という設定
面白いことに、「吸血鬼」ではなくあくまで「吸血症の人間」という設定なんですね愁は。だから、血を吸われた相手が吸血鬼になったりしないし、血を吸ったからって相手を操れるわけでもない。つまり最初からレ・ファニュの『カーミラ』系統のステレオタイプ展開にはなりようもないわけで、これにはちょっとほっとしました。あと、吸血症の人間は
という設定(p. 120)も興味深いと思います。言うなれば「11人いる!」のフロルベリチェリ・フロルのようなものですが、百合ものでそれをやったってところが新しいですよね。愁がこの先どちらのジェンダーを選ぶのか(あるいは、どちらのジェンダーになるのか)はお話の大きな鍵となりそうで、今後の展開が楽しみです。その特徴として男女差のない身体を持っていて 18歳になって初めてその時点までに吸った血の多い性別の身体になる
絵の魅力
少女漫画風の可愛らしい絵柄だけでもじゅうぶん魅力的なのに、構図や大ゴマでメリハリをつけるのが非常にうまいんですよこの作家さん。それが端的に表れているのが、p. 129。めずらしく謡子と離れてひとりで行動している愁の内面を表すページなんですが、緩急の付け方が実に心憎くて惚れました。また、ここで愁のさびしさが鮮やかに描かれるからこそ、その少し先でのラブ展開に頬染める愁のアップ絵(p. 133、137)がよけいにぐっとくるわけで、そのへんの構成の妙もとてもよかったです。
まとめ
「百合で吸血」というおなじみの設定に新しい風を吹き込む、面白いラブストーリーでした。絵もいいし内容もいいし、何よりメインカプの性格のコントラストと、初々しいドキドキ感がすばらしい。2巻以降もとても楽しみです!