石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『リビングデッド・ファスナー・ロック2 バニシング・ツイン』(瑞智士記、小学館)感想

リビングデッド・ファスナー・ロック2 (ガガガ文庫)

リビングデッド・ファスナー・ロック2 (ガガガ文庫)

百合話なんだけど、あっちこっちに既視感が……

1巻とは趣向を変え、今度は美人刑事・御室咲弥の視点から綴られる伝奇アクション小説。今回は冒頭からいきなり百合な展開となっており、「館花梨理(たちばなりり)」と「小椋ミシカ」という少女2人の関係がお話のひとつの軸になっています。それはいいのですが、物語を構成する要素がどこかで見たようなものばかりであるところがちょっと残念。瑞智士記さんならではの、重厚なのにリーダビリティの高い文体の魅力が相変わらずであるだけに、ストーリーに何かもうひとつ突き抜けた要素が欲しかったと思います。

「既視感」について

梨理とミシカの「噛む/噛まれる」(厳密には吸血行為ですが)という関係は同作者さんによる『あまがみエメンタール』を想起させますし、そもそも百合で吸血という切り口自体、決して新しいものではないと思います。研究所での「血族」の大群衆との攻防も、よくあるゾンビ映画との差異が見いだせません。また、拘束されたハカナシ「築宮那由多(つきみやなゆた)」の姿はまるで『羊たちの沈黙』のレクター博士のよう。そんなわけで、このお話全体が、「見覚えのある柄の布地を継ぎ合わせてつくったパッチワーク」のように見えてしまい、今ひとつワクワク感が得られませんでした。

前作では序盤のミステリー小説あるいは警察小説的な雰囲気や、姥皮という仕掛け、そしてそこにファスナーをあしらうという猟奇な雰囲気が独特の魅力をかもし出していたと思うんです。けれどこの2巻では、咲弥は「LÀ-BAS」なる「闇を棲処とする」(p. 59)捜査機関に配属というなんともラノベ臭い設定になっていますし、姥皮についても読者は既に知っていて、1巻ほどの驚きやスリルはありません。ファスナーが主人公たちの眼前にさらけ出される場面の鮮烈さはさすがこの作者さんだと思いましたが、他にこれと言って目を引く猟奇要素はなかったように思います。別にミステリ/猟奇以外でも何でもいいから、何か既存の物語との差別化をはかれるような仕掛けが含まれていたらもっとよかったのに、と感じました。

百合部分について

冒頭の幼い少女同士の官能にはゾクゾクさせられましたし、ベタな告白場面も悪くはなかったとは思います。が、どうしてもお話の随所で『あまがみエメンタール』を思い出してしまい、既視感が邪魔をして今ひとつ物語に入り込めませんでした。

『幽霊列車とこんぺい糖―メモリー・オブ・リガヤ』もそうでしたが、この作者さんの描くところの死と諦念の香りがする百合関係自体はあたし、とても好きなんですよ。この作品にしても、

  • 姉妹や想い人に投影された思春期のナルシシズム
  • 自傷と他傷
  • 歪みを「正す」のではなく「受け入れる」という一連のテーマ
  • 等には独特の味わいがあり、そこは確かに魅力的だと思うんです。だからこそ、そのテーマの料理法に何かもうひとつ目新しさが欲しかった感じ。贅沢かもしれませんが。

    その他いろいろ

    • 1巻を読まなくても独立した作品として楽しめるつくりになっています。ただし、2巻→1巻の順に読むとネタバレしてしまう部分があり、その点だけ注意。
    • 水祭甲さんは今回も活躍しますが、乙君はいっそ気持ちがいいぐらい影の薄い存在になっています。このへんの割り切り方は非常に面白かったです。
    • 3巻が出るとしたら、やはり百合展開ありかも?
    • オネエキャラの口調が今ひとつオネエになり切れていない気がするんですが、(以下ネタバレにつき割愛)

    まとめ

    百合な展開自体は嬉しいのですが、全体的に今ひとつ新味が感じられないところがたいへん残念でした。3巻が出るのであれば、愛でも凄惨さでも謎解きでもケレン味でもギャグでも何でもいいので、読者の目をひんむかせるような「驚き」が仕込まれているといいなあと思います。