石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

米ノースカロライナ州の反LGBT法、何が問題なのか?(追記あり)

North Carolina Flag
North Carolina Flag / Mr.TinDC

先日ジョージア州の話題でちょっと触れたノースカロライナ州の州法「H.B.2」の問題点が、イチカワユウさんのブログでたいへんわかりやすく解説されています。必読。

安心してトイレに行けない生活 --ノースカロライナ州のH.B.2が意味するもの-- - #あたシモ

そう、早い話が「H.B.2」は、同州シャーロット市がせっかく成立させた「『トランスジェンダーの人々に対して、自認するジェンダーに沿ったトイレ使用の権利を保証する』内容の反差別法」を無効にしてしまうんです。「H.B.2」支持者の皆さまのように「シャーロット市みたいな法律があると、男が女性用トイレに入り込んで、性犯罪が増えるのでは」という懸念を抱いておられる方は、ぜひ上記リンク先のご一読を。反差別法のある自治体で、実際にトイレでのハラスメントや犯罪が増えたという報告はないんですよ実は。

「H.B.2」とトイレの話をもう少し続けます、以下、シャーロットの地元紙The Charlotte Observerより引用。

手術を受けて出生証明書に記載されたジェンダーを変更する法的手続きを取っていないトランスジェンダーの人々は、州の法律のもと、性自認通りの公衆トイレを使う法的権利は一切ないものとされる。市や郡には、もはや州と違う基準を設けることはできない。

Transgender people who have not taken surgical and legal steps to change the gender noted on their birth certificates have no legal right under state law to use public restrooms of the gender with which they identify. Cities and counties no longer can establish a different standard.

それなら手術を受けて証明書の記述を変えればOK、というわけにはいきません。イチカワさんの指摘にもある通り、手術には金銭的・肉体的負担がともなう上に、そもそも手術を望まない人もいるからです。

ならば経済的・肉体的に余裕がある人が手術を望んでいる場合はすべてOKかというと、そういうわけでもありません。The World Professional Association for Transgender Health (WPATH) の基準では、ティーンエイジャーが性別適合手術を受けるには1年間の継続的ホルモン治療や、自分の望むジェンダーでの1年間の「リアル・ライフ・エクスペリエンス」(実際の生活体験)が必要とされています。しかし「H.B.2」の下では、ホルモン治療で体つきが変わっても出生証明書のジェンダー通りのトイレを使い続けなければなりません。手術前に「リアル・ライフ・エクスペリエンス」を持つこともできません。え、「10代の間は我慢して、大人になってからリアル・ライフ・エクスペリエンスなしで性別移行すればいい」? それまで耐えられずに自殺してしまう子供がどれだけいるのか、ご存知ない?

参考までにこちらのTED、「ノーマン・スパック: トランスジェンダーの10代達が『願う自分』になる手助けをする私の方法」もどうぞ。(右下のアイコンで日本語字幕が選べます)

なお、The Charlotte Observerによると、H.B.2はトランスジェンダー以外の性的マイノリティをも差別から守られなくする上に、教育活動における性差別を禁じた連邦法「タイトル・ナイン」に抵触している可能性もあるのだそうです。以下、同紙より引用。

ノースカロライナでは、ゲイまたはトランスジェンダーであるという理由で解雇される可能性はありますか?

あります。ノースカロライナは退職および解雇自由の原則が認められている州で、州による労働者保護には限界があります。州の法律でLGBT労働者の保護が謳われたことは、これまで一度もありません。HB2の記述により、州は性的指向や性自認に基づく保護クラスを創設するつもりはなく、市や郡がそのような保護クラスをつくることも認めないということがより明らかにされました。

Can someone be fired in North Carolina for being gay or transgender?

Yes. North Carolina is an “at will” employment state and offers limited protection for all workers. State law has never included protections for workers who are LGBT. The language in HB2 makes it more clear that the state does not intend to create a new class of protections based on sexual orientation or identity, and also will not allow cities and counties to create such a protected class.

H.B.2が学校に及ぼす影響は?

ノースカロライナ州は現在、公立学校の生徒たちに、出生証明書通りのジェンダーのトイレやロッカーを使うよう要求しています。このことが、あらゆる教育プログラムでの性差別を禁じている連邦法「タイトル・ナイン」とどのように折り合いを付けるのかは、まだはっきりしていません。連邦政府は性自認と性的指向を広い意味での性差別の範疇に含めていると、シャーロット市のジョン・ウェスター弁護士は言っています。つまり、州の教育機関や大学などが連邦から受けている、何億ドルもの教育助成金が支払われなくなる可能性が出てきます。

How does HB2 affect schools?

North Carolina now requires students to use public school restrooms and locker rooms based on the gender on their birth certificates. It is not yet clear how that reconciles with the federal Title IX law that prohibits discrimination in all school programs. The federal government includes sexual identity and orientation under the broader category of sex discrimination, says Charlotte attorney John Wester. That sets up a potential collision involving hundreds of millions of federal education dollars that flow into the state’s school systems, colleges and universities.

このほか「H.B.2」はノースカロライナの経済にダメージを与えるという指摘もなされています。つまり、この法律、性的少数者のみならずシスヘテロの生活にも教育やビジネスなどの面で悪影響をもたらしかねないわけ。にもかかわらず同法が導入されてしまった理由は、『ヤバい経済学[増強補訂版]』(スティーヴン・D・レヴィット&スティーヴン・J・ダブナー著、望月衛訳、東洋経済新報社)で紹介されている、リスク・コミュニケーションズ・マネジメントの専門家サンドマン氏によるこちらの発言で説明できるのではないかと思います。以下、同書p. 179より引用。

「危険は大きいが恐れは小さいとき、人の反応は控えめです」と彼(訳注:サンドマン氏のこと)は言う。「そして、危険は小さいが恐れは大きいとき、人はオーバーな反応をするのです」

正味の話、トイレの安全をもっともおびやかしているのは、シスジェンダー異性愛者男性の性犯罪者でしょう。でも人は、特にシスヘテロ男性は、シスヘテロ男性をそこまで恐れない。一方、トランスジェンダーの人々がトイレに危険をもたらす可能性は、シスヘテロ男性のそれよりよっぽど小さいのに(安心してトイレに行けない生活 --ノースカロライナ州のH.B.2が意味するもの-- - #あたシモで説明されていることをもう一度思い出してくださいね。トランスの人々が性自認通りのトイレを使うこと認めたためにトイレでのプライバシー侵害や性犯罪が増えたという報告は、ないんです)、知識がない人は恐れだけはたっぷり持っている。このミスマッチが「H.B.2」という「オーバーな」州法の可決につながったのではないかとあたしは考えています。

ノースカロライナ州では最近この「H.B.2」を合衆国憲法違反であるとして州を訴える訴訟が起こされたばかり。司法の力でさっさとこのアホな法律がシャットダウンされるよう、強く願っています。

2016年4月9日追記

2016年4月8日、ロック歌手のブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)が、ノースカロライナのこの法律に抗議するため、同州グリーンズボロで2日後に予定されていたライブを中止すると発表しました

以下で日本語記事が読めます。