石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

スバルが「レズバル」("Lesbaru"、レズビアンのスバル)になるまで―スバルのレズビアン向けマーケティングの歴史

スバルSUBARUのキーホルダー

米国ではスバルの車は"Subaru"ならぬ"Lesbaru"(lesbian+Subaruの造語)と呼ばれることがあるほどレズビアンに大人気。ここに至るまでの同社のマーケティング戦略を、Priceonomicsがわかりやすく解説しています。

詳細は以下。

How an Ad Campaign Made Lesbians Fall in Love with Subaru

上記記事をもとに、90年代からのスバル・オブ・アメリカのレズビアン向けマーケティングについて時系列でざっくり箇条書きすると、こんな感じになります。

  1. 90年代に売上げが低迷し、ニッチな市場を狙おうと考える
  2. 当時、スバルの四駆の顧客層は「教育関係者」、「医療関係者」、「ITのプロ」、「アウトドア好き」の4種だと思われていた
  3. 実はレズビアンが5つ目の顧客層だったと判明
    • スバルの車はもちろん、「スバル」という社名もレズビアンには人気だった
    • 日本語の「昴」はプレアデス星団(Seven Sisters)のことだが、英語の"Seven Sisters"という語には「米国東部の名門七女子大学」という意味があり、それが好まれていた
  4. 90年代当時、同性愛者向け広告はほとんどなく、スバルの日本人重役たちは「ゲイ」の意味がわからずに辞書を引く始末だった
  5. その日本人重役たちもレズビアン向けのマーケティングに同意
  6. 「レズビアンの顧客に訴求するにはまず同性愛者の社員を大事にせねば」と、ドメスティックパートナーへのベネフィット給付制度を作る
    • 給付制度導入にあたり、どんな長い議論になるかと思っていたら、日本人の重役は20秒で同意
  7. 1996年、初めてレズビアンカップルが出てくる広告を打つ。が、当のレズビアンには不評
  8. もっと控え目な戦略、つまりナンバープレートにさりげなくレズビアンに人気のテレビドラマの主人公名("Xena")を入れたり、ダブルミーニングのキャッチコピー("Get Out. And Stay Out."など。単純に読めば『外に出よう。そのまま外にいよう』の意ですが、『カミングアウトし、そのままの自分でいよう』とも受け取れます)を添えたりする広告の方が受けた
  9. プライド・イベントや、同性愛者の福祉にキャッシュバックできるクレジットカード「レインボー・カード」のスポンサーになることで、堂々とゲイ/レズビアン支援を表明
  10. 広告にマルチナ・ナブラチロワを起用

マルチナ・ナブラチロワが登場するCM(2000)はこちら。

2000年代前半あたりからはさまざまな会社がこぞって「ゲイ市場」を狙うようになり、それにつれてゲイ/レズビアン向けの広告も増えていきます。つまり、スバルはいわば先駆者だったわけ。しかし、「ゲイ市場、ゲイ市場」と目の色を買える企業が増えると同時に、アカデミックな方面からの批判も続出。批判の内容は「ゲイ市場を『金の鉱脈』扱いするのは、同性愛者は共働きで子供がいない(収入が多い)カップルだという誤解から来ている」とか、このような企業は「アッパークラスの白人同性愛者の方だけを見ていて、有色人種の同性愛者や、HIV/AIDSの治療費が払えないような同性愛者のことは眼中にない」など。これは現代にも当てはまることで、一理も二理もあると思います。

では、スバルはどうだったのか。先述の「レインボー・カード」の創設者のひとりであるパム・ダーデリアン(Pam Derderian)氏によれば、スバルは同カードのスポンサーとなることでHIV/AIDS研究やLGBTの福祉のために何百万ドルもの貢献をしており、「顧客と、スバル車を買うような余裕が決してないゲイやレズビアンの両方を助けている」とのことです。なるほど。

スバルの特にフォアスターやアウトバックあたりの車種が米国のレズビアンに好まれ、"Lesbaru"と呼ばれていることは知っていたのですが、それ以上は何も知らなかったため、元記事はたいへん興味深く読みました。単にアウトドア向けのタフな車だから人気が出たのだとばかり思っていたのに、実は約20年も前から積極的にレズビアン向けのマーケティングを実施してたんですね、スバル。レズビアンの懐を狙うだけではなく、社内の給付制度を改革したり、困っている同性愛者を支援するためのチャリティーに貢献したりしているところに、好感が持てます。……ただねえ、これはあくまでスバル・オブ・アメリカの話であって、日本の富士重工(2017年4月から『SUBARU(すばる)』に改名予定)の話ではまったくないんですよねえ。そこが、ちょっとひっかかります。

試しに今日本語で「スバル レズビアン」でGoogle検索してみると、上記のスバル・オブ・アメリカの例をダシにした上でゲイ(またはLGBT)市場をまさしく「金の鉱脈」扱いしてはしゃぐような、欲の皮の突っ張らかった記事ばかりが出てきました。日本のスバル(または富士重工)が同性愛者のためのイベントやチャリティーのスポンサーになったとか、非ヘテロ社員にもベネフィット給付するとか、ゲイ・レズビアンを意識した国内向け広告を打ったとかいう話は、ひとつも見当たりませんでした。結局のところ、儲からないからやらないわけでしょ? ならば米国でやっていることも全部カネのためなわけで、これをして「ゲイ・フレンドリー」とかなんとか呼ぶのはなんだか筋が違うと思いました。ただし、それと同時に、(1)レズビアンが好みの商品を気分良く購入でき、(2)そのお金でメーカーが儲かり、(3)そこから提供されたお金が困っている同性愛者の支援に役立つという流れを作り出すこと自体は、「ゲイ・フレンドリー」などという浮ついた形容よりずっと大事だとも思いますけどね。日本国内で最初にこの流れを作れる企業(があるとしたら)は、どこなんでしょうね?