石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

Amazonが「コンバージョン・セラピーの父」の本撤去

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Amazonなどのオンライン書店が、アクティヴィストからの要請で、「コンバージョン・セラピーの父」と呼ばれるジョセフ・ニコローシ(Joseph Nicolosi)博士の本の販売を中止しました。でも、他の著者による同様の本はまだ売られてます。

詳細は以下。

www.newnownext.com

「コンバージョン・セラピー」とは、簡単に言うと、同性愛者を異性愛者に「治す」という触れ込みのいんちき治療です。"ex-gay"、"reparative therapy"などとも呼ばれます。科学的根拠は発見されておらず、クライアントに自殺企図など深刻な健康被害をもたらす可能性があると指摘されています。詳しくは下記リンク先をどうぞ。

www.huffingtonpost.jp

アクティヴィストのRojo Alanさんという人は、コンバージョン・セラピーのパイオニアであるジョセフ・ニコローシ博士(1947 - 2017)の著作が AmazonやWorderyなどのオンライン書店で売られていることを発見。自分自身が子ども時代にコンバージョン・セラピーを受けさせられていたAlanさんは、同博士のA Parent’s Guide to Preventing Homosexuality という本が特に問題だと思ったそうです。それで両社に連絡をとったところ、Worderyは24時間もしないうちに、そしてAmazonは3週間かかって、ニコローシ博士の本を売り場から撤去したとのこと。実際、今(2019年7月7日)の時点でAmazon.comWorderyをキーワード"Joseph Nicolosi"で検索しても、一冊も出てこないようになってます。

ただ、問題は、他の著者によるコンバージョン・セラピー推奨本まで全部撤去されたわけではないということ。「世にインチキな本はたくさんあるんだからいいじゃないか」と片付けるわけにはいかないんですよ、この問題。ゲイのジャーナリストのダン・サヴェージは、著書『キッド――僕と彼氏はいかにして赤ちゃんを授かったか』(みすず書房)の中で、キリスト教保守派が1998年から新聞やテレビの広告で顕著に「同性愛卒業運動(ex-gay movement)」を推進したことが、翌年のマシュー・シェパードやビリー・ジャック・ゲイサーの惨殺事件につながったと指摘しています。以下、同書より引用。

ゲイやレズビアンは、広告やその「思いやり深いメッセージ」の本当のターゲットではなかった。じつは広告はストレートの人々に向けたもので、(引用者中略)広告主たちはストレートの人々に、同性愛のない世界で暮らすことを邪魔している唯一のものは、あの愚かなゲイやレズビアンたちだ(「なぜ彼らは主イエスキリストにただその身をささげるということができないのか?」)と信じ込ませたかったのだ。同性愛者などそもそもこの世にいなくてよいものだと主張することによって、広告は同性愛者には生きる権利などないと暗に言っていた。

今、アメリカのキリスト教保守が、ゲイやレズビアンは「キリストを拒否する」者たちであり、同性愛やアメリカ文化を純化するために抹殺されるべき「行動様式」であるという考え方を浸透させようとしている。そしてそれを「思いやり」と呼んでいる。

誰かがゲイやレズビアンには生きる権利などないと主張することと、他の誰かが自分でことを起こしてゲイやレズビアンの命を実際に終わらせようとすることには紙一重の差しかない。

世界中の医療の専門家から反対されているにもかかわらず、キリスト教保守の間でコンバージョン・セラピー("ex-gay"、"reparative therapy")がいつまでも人気を博しているのは、まさしく上記のような理由からだと思います。いくら「根拠がない」とか「危険だ」とか指摘されたって平気なはずだわ、最初から同性愛者のことなんか考えてないんだもん。ストレートの人たちに「同性愛は改めねばならない行動様式である」、「改めないやつらに生きる権利などない」と刷り込むことが目的なんだもん。別に本社に麗々しくプライド・フラッグを飾ったりしなくていいから、この手の問題にもうちょっと敏感になってくれないかしらAmazonは。

キッド――僕と彼氏はいかにして赤ちゃんを授かったか

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