石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

レズビアンのタコスがけなげでいいぞ―映画『ソーセージ・パーティー』感想

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レズビアンキャラも、作品自体もよくできてました

食材が主人公のお下劣CGアニメ。単なるおバカ映画のようでいて意外と骨太の問題提起があり、サルマ・ハエック演じるレズビアンのタコスの描写も秀逸でした。クリステン・ウィグの芸達者ぶりにも拍手。ただ、人種ネタのあまりのベタさは人を選ぶかも。

テレサ・デル・タコの愛と性

このお話のあらすじは、スーパーの棚に並ぶ食材たちが「人間に食われる」という運命を知り、反逆を企てるというもの。主役をつとめるのはソーセージのフランク(セス・ローゲン)とホットドッグ用パンのブレンダ(クリステン・ウィグ)のカップルで、ブレンダに横恋慕するレズビアンのキャラとして、途中からタコス(正確にはタコス用トルティージャ)の「テレサ・デル・タコ」(サルマ・ハエック)が登場します。で、このテレサのセクシュアリティの描写が、びっくりするほどフェアだったんです。

この作品はR指定で、FワードやCワードが容赦なく乱れ飛ぶ上に、性的な欲求や行為の描写も相当あからさまです。テレサからブレンダへの欲望も、最初からかなりはっきりと描出されています。しかしながらその一方、この映画はテレサに紋切り型の「ヘテロ女性の身体を狙うセックス・プレデターとしてのレズビアン」役を振ったりは決してしません。むしろそれとは逆に、ユーモアやアクション、スペイン語の決め台詞などをうまいこと織り交ぜて、つつましくてけなげでオリジナリティあふれるキャラに仕上げているんです。これだけ卑猥なネタで満ち満ちたコメディが、「レズビアン=単に性的なだけの存在」というステレオタイプを一切採用しようとしないことに、一種の感動すらおぼえましたよあたしは。

ちなみにこのテレサ、恋には破れるものの最後の最後に意外といい目に遭っていたりもするので、「悲恋に泣く(だけの)おかわいそうな同性愛者」というステレオタイプにもやっぱりあてはまらなかったりします。そんなわけで、主にテレサ目当てで見たあたしとしては、なかなかに満足いたしました。Fandangoによれば、本作品の共同プロデューサー/脚本/主演のセス・ローゲンは続編製作の意向を表明しているとのことなので、実現の折にはぜひまたテレサを出してほしいと思います。

ウィグ姐さん、さすがです

クリステン・ウィグが声を当てているアニメを見るのは初めてだったのですが、さすがウィグ姐さん、声だけでもすさまじくエネルギッシュでした。ブレンダの生真面目な性格をベースに、一瞬で歌うわボケるわ訛るわ悦楽の声を上げるわとスイッチを切り替えていく芸達者ぶりは、もはや神の領域。まさか自分がホットドッグ用パンの色気に悩殺される日が来るだなんて、これまでの人生で一度たりとも想像すらしたことがありませんでしたが、「相手がクリスティン・ウィグではそれもやむ方なし」と妙に納得させられてしまいました。

その他

  • 上の方で書いた問題提起の場面が深くてですね。ここで浮き彫りにされる宗教や正常性バイアスの問題は、まさに現実の人間社会でも頻繁に見られることですし、その後のラスボスとの戦いは、J. G. フレイザーがいうところの「害悪の転移」型の神殺しと解釈できると思います。おバカなダジャレや下品ギャグをこれだけぶちかましながらこういうことをやってのけるって、どんな離れ業よ。なまじドシリアスな映画でやられるより響いたわよ。
  • 華やかなオープニング曲の"The Great Beyond"が、リプライズではもう悪夢にしか思えなくなってくるという落差のつけ方がおもしろかったです。ちなみに音楽はアラン・メンケンが担当。
  • 人種/民族ネタのギャグが大量に出てくる上に、どれもかなりベッタベタなので、そこが合わない人には徹底的に合わない作品かと。あたしとしては、いささか首をひねってしまう部分もないではなかったものの、全体としてはEL PAÍSの評の、"generosa verbena de incorrección lúdica y grosería bien esculpida"(『おどけた不適切さと、巧みに彫刻された無作法さとの豊穣な祭り』)という形容がいちばんしっくりきましたけどね。とりあえず、先入観だけで「米国ではポリティカル・コレクトネスのせいで自由な表現ができない」と決めつけておいでの方は、こういう映画を観てみればいいのにと思います。ここまでみっしりエログロバイオレンスと人種ギャグを詰め込んでも全米であたりまえに公開できて、封切り週の興行収入は全米2位だったのよ?
  • オチがやや弱い気もしますが、ひょっとしたら続編につなげるための布石なんでしょうかこれは。

まとめ

「サルマ・ハエックがレズビアン役をやるなら見ねばならぬ。たとえそれがタコスでも」という一心で見た作品なのに、思わぬ拾い物をした感じ。女性が好きな女性キャラが肯定的に描かれている映画をお探しの方で、かつ下品耐性がある人なら見て損はない一本だと思います。続編熱望。

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