石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。

白人シスゲイのための異世界系ラノベ~映画『ストーンウォール』感想

ストーンウォール [DVD]

史実をダシにした異世界ラノベ的映画

1969年の史実「ストーンウォールの反乱」を舞台に、架空の白人ゲイ少年キャラ・ダニーの成長を描く映画。びっくりするほどステレオティピカルで薄っぺら。「ボクチンがあそこにいればヒーローになれたのにぃ」と夢想する白人シスゲイ向けの異世界系ラノベみたいな作品でした。

これはある意味『アバター』では

インディアナ州の高校生、ダニー(ジェレミー・アーヴァイン)は同級生ジョーとの肉体関係を父親に知られ、家を追い出されてニューヨークに出てくる。行き場のない彼を助けてくれたのは、クリストファー・ストリートのトランスやドラァグのセックスワーカーたちだった。当時のゲイバーは警察からの度重なる弾圧に苦しめられており、ある晩ついに客たちの怒りが爆発して……という展開なんですが、タイトルにもなっているストーンウォールの反乱は、別にこの映画のメインテーマではありません。エメリッヒ監督はマイノリティーの蜂起を描こうとしたのではなく、中西部の純朴なイケメン白人フットボール部員のダニーちゃんが、ニューヨークのゲイタウンという異世界で都合よくモテ、都合よくヒーローになる物語を描こうとしただけなのだと思います。いわばこの映画は『アバター』の白人シスゲイ主人公版。白人男が異世界のコミュニティに住みつき、外部から迫害されている「気高い原住民」を助けていい気分にひたるお話ですよ。

話のつくりがあちこち雑

もちろん、白人中産階級の、子供を大学に進ませるぐらいお金も文化資本もある家に生まれ、ブロンドヘアーのクオーターバックで、黙っていればノンケで通るシスジェンダーのゲイ・ティーンのカミング・オブ・エイジ物語だって、そりゃあ必要でしょうよ。69年のストーンウォール・インを舞台に、架空のキャラを主人公に据えてそれをやったとしても、そのこと自体は何も問題ないと思います。でも、この映画は全体としてあまりにも話が雑。主人公ダニーを始め、キャラというキャラがステレオティピカルだし、フラッシュバックが長くてくどいし、終盤で突然インディアナ州での劣化ブロークバック・マウンテンごっこが始まるしで、わざわざNYCで本当に起こった事件をダシにしてこの映画を撮る意味が感じられませんでした。年代を多少ずらして、なにかオリジナルのエピソードを山場に持ってきた方がまだ見ごたえのある作品になったんじゃないかと思います。

史実もだいぶ歪曲

歴史的事実の捻じ曲げっぷりも前評判以上でした。「反乱の口火を切ったのは実際には有色人種のトランスやドラァグだったのに、この映画ではダニーの功績だったことにされている」というのは予告編で予習済みだったんですが、暴動が拡大する過程でもひたすらダニーが画面の中心でリーダーよろしく叫んだりポーズをとったりしているという展開には心の底から脱力しました。ゲイタウンのゲイたちが、類型的な「金のハートを持つフッカー」か、美しいダニーに嫌悪感を抱かせる「醜い変態」のどちらか以外ほとんど出てこないのもどうかと思います。ダニーに恋をして(あるいは、ダニーとセックスして)あれこれ世話を焼こうとするレイ(ジョニー・ボーシャン)やトレバー(ジョナサン・リース・マイヤーズ)の描写のクリシェっぷりもすごいです。ちょっと調べてみたところ、レイもトレバーも、モデルとなった人物とはずいぶん異なるキャラに改変されているみたいですね。LGBT市民権運動研究者のデイヴィッド・カーター(David Carter)によれば、レイの元になったレイモンド・カストロ(Raymond Castro)はマスキュリンな男性で、女装も売春もしていなかったとのこと。つまり、映画内のレイのような、「シスジェンダー男性への報われぬ恋にヨヨと泣くフェミニンなゲイ(※当時の用語では、同性愛者のみならずトランスやジェンダー・ノンコンフォーミングな人たちも『ゲイ』と名乗っていました)」というステレオタイプにはあてはまらない人だったみたいです。また映画では反乱で戦わなかったことになっている活動家のトレバーは主にクレイグ・ロドウェル(Craig Rodwell)なる人物を参考にしており、実際のクレイグは蜂起を支持して反乱の場で「ゲイ・パワー!」と叫ぶ側の人だったとのこと。つまりレイとトレバーは、主人公を「ダニーちゃんsugeee! フェミニンなキャラにべた惚れされて、しかもすげなく振っちゃってsugeee! しかもゲイ権利活動家より勇敢でsugeee!」と持ち上げるためだけに創り出された存在だったらしいんですね。モデルに失礼だし、映画のサブキャラとしても退屈だと思いました。

ちなみにレズビアンのキャラは名前すらでてきません。実在したブッチダイク、Stormé DeLarverieに相当すると思われる女性が警官によって車に押し込まれそうになり、激しく抵抗する場面こそ出てきますが、それだけ。あれじゃ、ひどい目に遭わされてヒーローを奮起させるためにだけ存在する、古典的な「冷蔵庫の中の女性」係じゃん。エメリッヒ監督は本作品の公開前、「この映画にはドラァグもレズビアンも入っている、何もかも入っている」と主張していましたが、レズビアンをこんな風にしか扱えないのなら、どこか他所での、男性ゲイだけのクローズドな状況での話にしてくれた方がまだましだったと思います。

まとめ

実話をもとにした映画でなかったならば、「冗長でステレオティピカルだけれど、そこそこ見られることは見られる青春もの」と受け取れる作品だったかもしれません。下手にストーンウォールの名を借りて、史実に対してリスペクトのあるとは言えない脚色を施したのは失敗だったんじゃないかなあ。事実にもとづく面白いLGBT映画が見たいのなら、『パレードへようこそ』を見た方がいいと思います。