石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ヒャッコ(3)』(カトウハルアキ、フレックスコミックス)感想

ヒャッコ 3 (Flex Comix)

ヒャッコ 3 (Flex Comix)

百合成分低減、虎子の過去が明かされロリっ娘登場

ハチャメチャな主人公「虎子」を中心とする学園群像劇。この3巻では冬馬(とうま)が脇役に徹しており、子々(ねね)の描かれ方もステレオタイプ的で、百合目当てに読むにはちょっと厳しい感じ。ストーリー面では虎子の複雑な家庭事情が明かされたり、ロリっ娘の新キャラが登場したりはしてるんですが、ひとつのエピソードが盛り上がりかけるとプチッと切って次に行く構成のため、人によって好みが分かれそうな印象を受けました。

百合成分は低減中

冬馬について

低減中とは書きましたが、冬馬の虎子に対するツンっぷりは相変わらずです。

虎子「え!? トーマなぐさめてくれてんの?
冬馬「バ…ッ 違…ッ!!」

とか(p65)、

虎子「トウマ〜 この問題わかんないよ〜〜」
冬馬「じゃあ死ね」

とか(p127)、楽しいったらありません。ツンの中に垣間見える微かなデレも可愛いです。ただし、今回冬馬はあくまで脇役に徹しているため、2巻の「虎に馬」なみの萌えを期待するのは難しいかと。もともと特に百合を謳った漫画でもないし、冬馬から虎子への想いはこのままマイルドに低空飛行で描かれていくのかもしれません。

子々について

いちおうバイセクシャルだということになっている子々ですが、3巻でも結局「女が好きな女=見境なしにヘテロ女性に欲情する色情狂」というステレオタイプから一歩も抜け出ていません。おまけにこのキャラ、両性愛者のはずなのに男のことは完全無視で、女にばかり興奮しているところがすごく変。全体的に、「なぜ創作物の中のレズビアンやバイセクシュアル女性は色情狂として描かれがちなのか」で述べた問題をそのまま具現化したような、ひねりに欠ける描かれ方だと思います。

別に女好きの淫乱設定であっても、「実はこういう側面もある」という描き方であれば面白いと思うんですよ。たとえば、

みたいな。つまり、「性的指向だけでキャラクタの説明をしたつもりになって終わり」ではなく、それ以外の部分もきちんと見せ場を作って描写するという描き方ですね。でも子々の場合は、今のところ「女好きな女=淫乱」というありがちな偏見をただなぞっているだけで、面白みに欠けます。今後大化けしてくれたら嬉しいんですが、どうかなー。

その他新展開について

虎子の兄の「狐」や姉の「鬼百合」が登場。ふたりともえらく魅力的です。が、この巻では虎子の家庭事情の説明役に終わってしまっており、これからこの2人を含めて話が盛り上がるのかと思いきやガラッと違うエピソードに切り替わってしまって拍子抜け。後半で登場するロリっ娘のキャラも、現時点ではまだ様子見といったところでしょうか。

ただし、ひとつのエピソードを長く続けずにどんどん別の話に飛ぶのは、特定のカラーをつけずにオムニバス形式っぽく展開していこうという狙いなのかもしれません。表紙裏や巻末ふろくの遊び加減といい、いわゆる「お約束」的なものを片っ端から脱臼させようという気配を感じるんですよね。『ヒャッコ』が一種独特な飄々とした雰囲気を保っているのは、こうした企みがうまいこと働いているためかもしれません。

まとめ

冬馬のツンっぷりは楽しいんですが、冬馬と虎子のエピソードの絶対量自体は少なく、百合目当てで読むにはちょっと厳しいかと。また、「バイセクシャル」キャラ子々の偏見チックな描かれ方も気になるところです。ストーリーは淡々としており、好き嫌いが分かれそう。