石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『小さな惑星の小さなお話―かずといずみ作品集』(かずといずみ、ジャイブ)感想

小さな惑星の小さなお話―かずといずみ作品集 (CR COMICS)

小さな惑星の小さなお話―かずといずみ作品集 (CR COMICS)

マイルドな百合っぽさが漂う短編集

ガチ恋愛こそないものの、マイルドな百合っぽさがそこここに漂う短編集です。可愛らしくあたたかい作風ながらも、ダークな側面を持つお話もいくつか収録されているのが面白いところ。なお、ヘテロ恋愛物も2作収録されていますので、「とにかく男が出てくる漫画は嫌!」とお思いの方はご注意を。

百合っぽいのはたとえばこのへん

「あかよろし」
女子高生「一柳藤」が、ノルウェーからの留学生「キリ・ストゥルルソン」と共に「花札部」を作る話。キリに顔を近づけられて「近い」「だから近い!!」とうろたえる藤が愛らしいです。握り合う手と手も微笑ましく、希望の光射す終わり方もナイス。女子校という陳腐になりがちな舞台を使いつつ、ガラが悪い学校にしてみたり、藤を強持てのするタイプにしてみたり、何より「花札」という全然百合っぽくないアイテムを持ってきたりしてひねりをきかせてあるところが新鮮でした。
「禁止されていること」
「日本で禁止されていることをひとつだけ解除することができる」というローカルルールを持つ村のお話。暴力禁止を解除すれば暴力がふるえるし、盗み禁止を解除すれば自由に盗みができる、というしきたり。けれどそこにはもちろん代償があって……。主人公「香子」の親友「ナツ」の殺し文句が泣かせます。ブラックなオチも印象的。
「三国姫」
「フォーク王国」「スプーン王国」「ナイフ王国」の3つの国の姫たちが繰り広げるハートウォーミングなコメディ。ナイフ王国の王女がスプーン王国の王女にベタ惚れなところが楽しいです。

ダークな側面を持つお話

前述の「禁止されていること」の他、「誰かが何かを隠してる」「緑色」など、静かな絶望をたたえたお話が印象的でした。こんなに可愛らしい絵柄で、けっこう黒い話をさりげなく描いてしまうところがすごい。決して可愛いだけの作品集ではないと思います。

その他いろいろ

  • どちらかというとストーリー性が弱いお話が多い(特に同人誌発表作品)ため、かっちりと起承転結がついた漫画が好みの方には合わないかも。
  • 前述の通り、男女恋愛物ありです。1冊まるごと百合じゃないと気に入らない方は回避推奨。

まとめ

決して百合を前面に押し出した作品集ではないのですが、いくつかの作品の持つソフトな百合っぽさは充分楽しかったです。時折かすかにのぞく凄味や怖さもよかった。恋愛色が薄くてもOKな百合好きさんはぜひどうぞ。