石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『回転銀河(1〜5)』(海野つなみ、講談社)感想

回転銀河(1) (講談社コミックスキス)

回転銀河(1) (講談社コミックスキス)

回転銀河(2) (講談社コミックスキス)

回転銀河(2) (講談社コミックスキス)

回転銀河(3) (講談社コミックスキス)

回転銀河(3) (講談社コミックスキス)

回転銀河(4) (講談社コミックスキス)

回転銀河(4) (講談社コミックスキス)

回転銀河(5) (講談社コミックスキス)

回転銀河(5) (講談社コミックスキス)

贅沢な痛みと切なさ。百合話もあり。

オムニバス形式でいろんなキャラのいろんな恋模様を繊細に描き出す連作集。4巻に女のコ同士のお話が登場するのですが、百合目当てとかでそれだけ読んでたんじゃもったいなさすぎます。これから読まれる方には、ぜひ全巻通して読んで、この贅沢な痛みと切なさを堪能しまくっていただきたいと思います。

さまざまな人の、さまざまな愛情

『回転銀河』がユニークなのは、さまざまな人のさまざまな愛情が実に等価に扱われていること。インセストあり、片想いあり、友情以上恋愛未満もあれば両思いもあり、同性同士もあり、といった感じで、この作品に登場する愛情の形は非常にバラエティ豊かです。それでいて、「インセストは即ダメ」とか、「片想いより両想いの方が価値がある」みたいな変な決めつけは一切ないんですね。どの人のどの想いにまつわる幸福も痛みも、皆とても大切に扱われていて、ぐっときました。
1話ごとに主人公が交代していく形式なのもよかったなあ。基本的にこのお話には「脇役」が存在しないんです。いかにも脇っぽく見えるキャラクタ達も、別の話では堂々の主役を張って、胸に迫る物語を見せてくれます。タイトルの通り、この作品はまるで銀河のようです。ひとりひとりのキャラクタという星で構成された大きな銀河がゆっくりと動いているような、そんな物語だと思います。

4巻の百合話について

4巻第14話「百花繚乱」は、女子高生の「沙季」が同級生「彬子」に片想いするお話。ひとことで言ってしまうと悲恋なんですが、それにしてはあんまり悲しくない(形容矛盾)のはなぜでしょう。それはたぶん、沙季のこの台詞(p. 72)が、恋愛の本質を突いているからです。

恋なんて 一握りの幸せな人を除いていつも報われないものじゃないの?

真実ですよね、これ。男女だろうと女女だろうと男男だろうと、恋なんてほんとにそんなもの。つまりこれって、女同士であることそのものにテンパって悲しみに溺れるお話ではなくて、どこにでもフツーにある「報われない恋」のひとつとしてニュートラルに綴られたお話なんです。その冷静な視線がまずいいし、報われないと知りつつ彬子を愛し続ける沙季の凛とした姿も、とてもよかったです。しみじみとしたオチも素敵でした。

ちなみに

1巻第3話「空を飛んだ話」もかなり百合テイストです。恋愛にも似た熱く切ない友情話で、こちらもおすすめ。

まとめ

百合話もそれ以外のお話も非常にナイスな連作集。複数キャラクタのエピソードが絶妙に重なり合い響き合う構成と、いろんなタイプの愛情を切なさ込みで丁寧に描き出す作風が素晴らしい。5冊まとめてめちゃくちゃおすすめです。