石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ワイルドブーケ 想いを綴る花の名は』(駒尾真子、一迅社)感想

ワイルドブーケ 想いを綴る花の名は (一迅社文庫アイリス こ 2-2)

ワイルドブーケ 想いを綴る花の名は (一迅社文庫アイリス こ 2-2)

1作目より圧倒的に面白いです!

女性同士が必要以上に親密になることを禁じられた世界で、駆け落ち同然に王宮を飛び出した姫とメードのラブストーリー、第2巻。1作目よりも圧倒的に面白かったです! せっかくのヨーロッパっぽいファンタジー設定の中で「どこかで見たような日本の女子校ノリ」&「どこかで見たような活劇」がなまぬるく展開されていた前作とはまるで違い、今回は「ワイルドブーケ」ならではの世界観がしっかり演出されているし、恋も冒険も飛躍的にパワーアップしていると思います。1か所だけちょっと納得できないところがないでもないのですが、トータルするとじゅうぶんに面白い、よい百合小説でした。

世界観の演出がナイス

町の描写について

今回、お話の舞台となるのは、グロリオサ連邦中部にあるポリゴツナムという町。町並の描写からは「坂と階段が多く、石造りの建物がたくさん並んでいる」という外国風の風景がしっかりと伝わってきて、これだけでもう既に、ほとんど王宮(の皮をかぶったキャッキャウフフ系女子校)の中だけが舞台だった前作とはずいぶん印象が違います。学問に力を注ぐ気風があるとか、一度戦火で滅びた町だとかいう設定も、お話の厚みを増していてよかったです。

食べ物&飲み物の異国情緒について

町の描写に加えて、さらにうまいなあと思ったのは、食べ物や飲み物の描き方。サンドイッチやチーズケーキなど、現代日本の読者になじみのあるメニューも多く登場する中に、

今夜のメニューは野菜と肉をデミグラスソースで煮込み、もっちりとしたパンの中に閉じ込めて焼いたもの。ラパラスという、ローデア自治区の中部で好んで食べられるメニューだ。

のように、異国情緒をかもし出す料理もしっかり登場(p. 154)してるんですよ。紅茶やジャム入りパンなどの「これはどこの女子高生のおやつですか」的な飲食物しか出てこなかった1巻とはえらい違いです。

『グイン・サーガ』あたりを例に引くまでもなく、食べ物/飲み物の描写って異世界ものの雰囲気づくりにはすごく大切だと思うんですよ。今回の「ワイルドブーケ」は、そうした要素をうまく使って、「ガッチガチのファンタジーや歴史ものではないけれど、ちょっとだけ現代日本とは違う世界」を演出するのに成功していたと思います。

独特の「ゆるさ」について

ここまで述べてきたように、「異国の話で、かつ、ガッチガチのファンタジーや歴史ものではない」という前提が読み手に伝わる仕組みになっているため、

  • ジョーゼットが住み込みでバイトするだけでデェリアナが養え、貯金までできる
  • ヨーロッパ調の世界なのに、なぜかお風呂の構造が日本風(湯船の横に洗い場)
  • 不審者として連行されても、拷問はおろか持ち物没収もされない

などの一種独特の「ゆるさ」にも今回はそんなに違和感を感じませんでした。「これはこういう世界なのだ」と納得させられてしまう力が、本作にはあると思います。

……ただ、それでも納得できない部分が一か所だけあるにはあるんですよ。それは、「逃避行中のジョーゼットとデェリアナが、なぜか堂々と本名で呼び合っている」という点。こればっかりは、「そういうゆるい世界だから」という設定では説明し切れないんじゃないでしょうか。これで捕まらないと思っているふたりの知能が心配だし、捕まえられない追手の無能さもお話の緊迫感を削ぐと思います。このあたりがもうひとひねりされていたら、もっとよかったかも。

恋も冒険もパワーアップ

まず恋。これがよかった。ジョーゼットとデェリアナの仲はしっかり進展し、初々しいキスシーンも複数回出てきます。法により恋愛が統制されていて、人々はキスすら知らない、という設定がうまく効いていて、キスシーンにはどれも震えるような甘美さと感動がありますよ。あと、お風呂で身体を洗いっこしたり、同じベッドで眠ったりするシークエンスも、上品なエロティシズムに満ちあふれていて素敵でした。

冒険の方はというと、小道具と剣を使っての派手な大立ち回りに加えて、デェリアナの土壇場での活躍がよかったです。前回は「単なる女子校の先輩」風なキャラだったデェリアナですが、今回ははっきりと王族の威厳と気品をもって敵を圧倒していて、格好よかった!

まとめ

とにかく1作目より格段に面白くなっていることに驚嘆。一種独特なゆるさを内包した「ワイルドブーケの世界」的なものがきちんと演出されており、おおむね「うまい大嘘で読者を騙してくれる小説」と呼べる作品だと思います。ジョーゼットとデェリアナの恋が甘やかに進行しているところもよかったし、活劇部分もパワフルで楽しかったです。このままシリーズ化してくれると嬉しいなあ。