- 作者: 吉富昭仁
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2009/06/18
- メディア: コミック
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熱くて微エロで優しい百合短編集
「夏」「田舎」「主要人物のみ登場」というくくりで紡ぎ出されたオムニバス百合短編集。少女達の欲望を夏の熱気に絡めて描きつつ、決してあざとくなりすぎないところがとても魅力的です。また、よくある「同性愛のスティグマ視」をちらりと登場させつつも、最終的にはそれをまったく支持せず、女のコ同士の恋を優しく肯定していくところも楽しかったです。エロティックなのにとびきり可愛らしく、熱いのにどこか心なごむ、ユニークな1冊だと思います。
欲望と夏の熱気について
むせかえるような夏の暑さの中で描かれる少女たちの欲望が、ことのほかよかったです。特に、プールや雨、川、汗、スイカなど、いかにも夏っぽい「水分」(または『液体』)を使った表現の巧みさが印象的。水って無意識の象徴でもあり、同時に体液のメタファーでもあると思うんですよね。「液体」を共有することでさりげなく共有されていくエロティシズムの描写が、淫靡かつ上品でステキでした。
スティグマの扱い方について
「すごくすごく悩んだ…女の子同士だったから…」「一過性のはしかみたいなもの」「女の子が女の子を好きになるなんておかしいよね」などの台詞がカジュアルに出てくる作品ですが、同性愛嫌悪はみじんも感じられません。というのは、どのお話も最終的には女のコ同士の恋を肯定しきってくれているからです。それはたとえばこの台詞(p. 54、強調は引用者)に顕著。
私らの時期で女の子が女の子を好きになるのって一過性の感情で長続きしない…って
でも私は違うから!
要するに、この作品においては同性愛のスティグマ視はあくまでキャラたちの一瞬の心の震えとして描かれるだけであり、そうした価値観を絶対視するとか、ましてや「恋の障害」として美化する(たとえば『性別を超える恋ってスゴイ♪』とか言ってうっとりする、みたいな)ような姿勢はまるでないんですよ。そこがすごくフェアな感じで、安心して読めました。
可愛らしさとなごみ感覚について
どの作品もキャラたちが中学生中学生していてとびきりチャーミングなんですが、夏らしい可愛らしさという点では「夏と言えば…」にとどめを刺します。仲良し女子ふたりの「夏と言えば!」「夏と言えば?」の掛け合い文句の元に流しそうめん→肝試し→プール→スイカ割りetc.とコミカルに切り替わっていく夏の風景の中で、初々しい恋模様がきちんと描かれていくところに惚れました。
あと、「sketch」では女たらしの悪役っぽく描かれていたレズビアンキャラが、描き下ろし作「バースデイ」でいたいけな側面を見せているところなんかも、ぐっと来ました。こういう「あからさまに女好きなキャラ」が性的ハラッサーでもニンフォマニアでもなく、当たり前の「人間」として扱われているのって、すごくほっとします。
まとめ
熱くて暑いのに読後感はすっきり爽やかな、すばらしい1冊でした。全年齢向けでこのエロティシズムというところがまずすごいし、それでいて少しも下品にならないところはもっとすごい。妙な偏見が絡まっていないところもありがたいし、どこか懐かしい夏の風景や、その中で繰り広げられるキュートな恋模様がもう最高に楽しいです。おすすめ。