石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『さくら文通』(ヒマワリソウヤ、一迅社)感想

さくら文通 (IDコミックス 百合姫コミックス)

さくら文通 (IDコミックス 百合姫コミックス)

絵は綺麗なんだけどなあ

「日輪早夜」名義でBL漫画で活躍されている作者さんの初百合単行本だそうです。描き下ろしも含め、計7編のリリカルな短編が収録されています。綺麗な絵柄や時代設定の幅広さはよかったのですが、いかんせんキャラの掘り下げが浅く、説明台詞が多すぎるような気が。お話も平板で、もう少しプロットの練り込みが欲しかったところ。

絵柄と「イロモノ設定」は魅力的

まず、かっちりした絵柄の美しさがたいへんに魅力的です。特に、キャラクタの生き生きした表情には何度も見とれてしまいました。百合漫画でありながら、現代の女学生ものだけにとどまらず、「SFっぽいファンタジー」「姫と騎士もの」などの毛色が変わった作品が収録されているところも好印象。百合ってヘテロ物に比べるとまだまだ未開拓の分野が残されているジャンルなので、こうした「イロモノ設定」(あとがきより)の作品が出てきてくれるのはとても嬉しいです。

でも、このへんはイマイチ

キャラクタの内面がわりかし空疎で、人間というより単なる「カップリングの片方」という記号の役割しか果たしていないように思います。

例を挙げて説明しましょう。収録作「コスモスの咲く庭」のストーリーの仕掛けそのものは、遠藤淑子が18年前に描いた「星の階段」(白泉社文庫『マダムとミスター(1)』に収録)と変わりません。でも、読後感は天と地ほども違います。なぜか。キャラクタの掘り下げ方が違うからです。

「コスモスの〜」の方は、このキャラたちがいったい何が好きで何が嫌いなのか、何に悩み何に共感するのか、いいところはどこで欠点は何なのかがひとつも伝わってきません。会話内容も特に互いの内面に踏み込むものではなく、主人公がお相手を好きになった理由が、「同情」「外見に惹かれた」以外にさっぱり見あたらないんですよ。いや、同情や外見から入る恋だってもちろんありなんですが、それにしてもどこかにもう少しケミストリーがあってもよさそうな気がします。内面的なつながりの描写が希薄なまま、クライマックスで突然言い訳のように

ほんの数日でも こんなに切ない想いを抱けるのね

とナレーションを入れられた(p. 27)ところで、こちらとしてはついていけないものがありました。 

他に、概して説明台詞が多めなところも気になりました。たとえば「晴れに舞う雪」の過去エピソードなど、もう少しナレーションを控えて、映画で言うところのクロスカッティング的な手法で処理するというわけにはいかなかったのかと思います。「くちなし」や「さくら文通」のように、早々にオチが割れてしまう作品が多いところも残念でした。

まとめ

整った絵柄は魅力的ですし、一風変わった設定が多めなところも楽しかったです。ただし、キャラクタの心情描写やストーリーの練り込みなどについては、正直詰めの甘さを感じました。次回作に期待かな。