石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ふたりとふたり』(吉富昭仁、一迅社)感想

ふたりとふたり (IDコミックス 百合姫コミックス)

ふたりとふたり (IDコミックス 百合姫コミックス)

上品なエロスが光る四角関係百合

女子高生ふたりと大人の女性ふたりが織りなす、性愛ありの百合ラブストーリーです。いや、これは面白いわ。百合だけでなくポリアモリー(複数恋愛)の要素をも取り込み、上品なエロスとそこはかとないユーモアで仕上げた傑作だと思います。表情や台詞の可愛らしさといい、先の読めない展開といい、素晴らしいのひとこと。

先の読めない面白さ。

以下、帯よりあらすじを引用。

小夜子と亜由美は女子寮で同室の関係。
お互いを意識していたが、女性である自分を受け入れられるはずがないと思っていた二人は、それぞれ別の年上の女性の恋人と身体を重ねていた。あるとき、互いに女性の恋人がいる事を知った二人の心は抑えきれず、寮の部屋で結ばれてしまう。一方、二人の恋人である恵子と麻美は、年下の恋人の変化を敏感に感じて…。

要するにこの4人が一堂に会するところから始まる物語なわけです。さぞやドロッドロな展開になるかと思いきや、第1話にしてその予想はみごとに裏切られます。第1話最終ページで

紹介なんかしなきゃよかったかな…

とつぶやく恵子の、台詞とはうらはらに穏やかな表情(p. 28)の味わい深さと言ったら。そう、このお話は、嫉妬や画策うずまく恋の争奪戦なんかでは決してないんです。
かと言って、ではオトナなふたりが潔く身を引いて女子高生の未熟な恋を見守る話になっていくのかと言ったら、それもぜんぜん違います。

なにがあったのか…ゆっくりていねいに説明してくれる?
じゃないと…小夜子ちゃんの前で恥ずかしいことしちゃうよ?

なんて一見お約束なシーン(p. 91)で読者をハラハラさせつつ、まったくお約束じゃないキュートな結末になだれ込んでいくというのがこの作品の醍醐味。最初から最後まで、「やられた!」と思うことしきりで、大変楽しく読みました。

エロスについて

百合姫S掲載作だけあって、キスシーンもセックスシーンも多めです。どの場面も美しく、かつみずみずしく、すこしも「オカズでござい」的な安っぽさがないところはさすが。美少女たちのこの上品なエロティシズムは、たとえば千之ナイフ氏の作風にも通じるものがあるかと。描き下ろしの後日譚には3Pなんかも出てくるのですが、「観客のための見せ物」ではなくて、「当事者たちにとって特別で、楽しくて、ステキなこと」という切り口であるところが新鮮でした。

ユーモアについて

前述の恵子が、コメディリリーフとしていい味出してます。一歩間違えば重くなりそうなストーリーが終始軽妙な味わいを保っているのは、この人の力によるところが大きいかと。同作者さんの『しまいずむ』を思わせるようなすっとぼけた笑いの数々が、とても心地よかったです。

まとめ

エロも極上、可愛さも極上、そしてストーリーの斬新さも天下一品。大げさに言うと、異性愛主義もモノガミー至上主義も、そして実は性愛主義すらも越えたところにある「女のコ同士の特別な関係」をさらりと描く力作だと思います。おすすめ。