ちょいあ! 2 (リュウコミックス) (リュウコミックススペシャル)
- 作者: 天蓬元帥
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2009/08/20
- メディア: コミック
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あまりに偏見コテコテな2巻
オタクネタ・同人ネタ多めの萌え百合4コマ。最初の数ページだけで今どき稀なほどの同性愛・両性愛への偏見が垂れ流されており、心の底からがっかりしました。がんばって残りの部分も読みましたが、冒頭で垂れ流されたクソ失礼な偏見をカバーできるほどの要素は何ひとつ見あたりません。今回はSMネタやメインカップルの初キスネタなどが比較的ねっちりと描かれており、それをもってして「百合度」とやらが上がったと喜ぶ向きもあるようですが、あたしはまったくその意見に与しませんね。カラダが絡んでりゃそれでいいってものではないんです。
具体的にこのへんが偏見コテコテ
「熱病」と「セクハラ」
百合キャラなはずの「まわた」の台詞(p. 7)です。既に耳タコの偏見ですよね、これ。レズビアンには長続きする愛はないと言っているも同然で、ものすごく失礼です。こちらの記事で紹介したフロリダのラブラブばーちゃんたちにスライディング土下座で謝ってほしいぐらい失礼です。しかも、その後の台詞がさらにひどい。百合なんて所詮一時的な熱病なのよ 女子校から卒業する頃にはみんな目が覚めてるわ
あたしは双方が成人するまで百合関係を保つ関係はほぼゼロとみるわ!!
だから安心してあたしのセクハラを受けなさい!!!
「百合は『一時的な熱病』」→「だから安心してセクハラさせろ」て。何その理屈。女性同士の性愛を男女のものより下に見る態度であり、同性間のセクハラを矮小化する発言でもあり、「百合な人=セックスモンスター」という蔑視の助長でもあり、たったの数コマで「百合」に対する陳腐な偏見をここまで大量に垂れ流せるものなのかとある意味感心しました。
ちなみにまわたのこうした発言は16話でなされたものですが、16話中にはフォローは一切なく、完全に言いっぱなしです。17話にフォローのつもりらしき部分があるにはあるのですが、それも穴だらけで少しもフォローになっていないのが痛いです。
フォローになってないフォロー
実は上記のまわたの台詞は、主人公「小聖」が夢で見たもの。17話でまわた本人が、
と発言しており(p. 11)、ここで止めればそれなりに収拾もついたと思うんです。ところがその後、別なキャラによってさらに偏見の上塗りがされていくところが最悪。大体漫研のホープ腐猫のまわたちゃんが そんな夢のないコトいうワケないじゃない
まず、杏子と小聖の以下の台詞(p. 11)をどうぞ。
杏子「それにね小聖ちゃん 女のコ同士のほうがいいコトだって結構あるのよ……」
小聖「えっ どんなコトですか!?」
杏子「……エロ過ぎて委員長としては言えないわ……」
結局、女のコ同士の関係のメリットは「エロ」しか提示されないわけですよ。さらに、小聖のこんな台詞(p. 12)が、また偏見コッテコテなんです。
う〜ん…でもエターナルラブゲットするためには…マユ子ちゃんから男子への興味を取り去らないと…
天蓬元帥さんとコミックリュウの編集さんは、この台詞で自分たちが何をやらかしたかわかってるんでしょうか。「女性両性愛者には女性とのエターナルラブはない」と世界に向かって言い切ってるも同然なんですよ、これ。フロリダのラブラブばーちゃんズだけでなく、全世界の両性愛者にもスライディング土下座で謝ってほしいぐらいです。あと、人の性的指向を外部から操作しようとする試みを肯定的に描くこともどうかと思います。このへんでも紹介しましたが、心理学や精神医学の専門家は、「性的指向を変えようとしても変えられる見込みはほとんどない」「変えようとすると自責の念や不安を引き起こす可能性がある」と指摘しています。小聖のこの無邪気な台詞には、性愛についてろくに考えたことも調べたこともなく、平気で人のセクシュアリティをいじくり回そうとするクソノンケ(異性愛者が全員そうだと言っているわけでは全くなく、異性愛者の中のそういうタイプの人は『クソノンケ』だとあたしは思っている、という意味ですよ。念のため)と同じ匂いがプンプンしていて、まったく共感できませんでした。
他に、ボディビルネタで女性ビルダーの存在が完全に無視されているのもおかしいし、小聖が信じている「男子が苦手=ガチ」っていうのもうさんくさいと思うんですよねあたしはね。男子が苦手だから女子とつきあうというのは、結局「異性愛に挫折した異性愛者」「異性に向けるはずだったエロスを同性に振り向けている人」でしかなく、根っから女が好きな人ではありえないと思います。そんなところも非常に萎えでした。
SMとかキスとかはあるんですけどねー……
冒頭で触れたように、今回はエロ要素がやや多めです。踏んだり踏まれたりそれにうっとりしたりというSM展開もさることながら、メインカップルの初キスに割かれるページ数がとにかくすごい。第27話「今日はキスの日?」がまるまる1本キスネタに費やされ、うち2ページほどを使ってねっとりじっくりとくちづけの行為が描写されています。ふたりの欲情も熱情もしっかりと描き込まれている上、もともと絵は達者な描き手さんなので、これをもってして「百合度アップ」と喜ぶ向きもあるでしょう。
でも、前述のように冒頭からさんざん「一時的な熱病」「セクハラさせろ」「メリットはエロ」「男子に興味があるとエターナルラブはない」みたいな陳腐な偏見を並べ立てた後で、いくら体だけ熱く絡んでみせてくれても、「だから何?」としか思えませんでしたよあたしには。一応この少し前、小聖とマユ子が「ずっと一緒」と誓い合う場面(p. 80)があることはあるのですが、「『木に竹を接いだよう』というのはこのことか」と白けるばかりでした。杏子やまわたの片想いネタなども、残念ながら、「この作品でなければぐっと来たかもね」としか感じられませんでした。
まとめ
1巻で既に「同性愛はピュアじゃないけど私たちはピュア(要約)」というバイアスが開陳されていた本作ですが、2巻では偏見の度合いはさらにパワーアップ。最初の数ページだけで読者(あたしだ)をこの上なくムカつかせ、本を床に叩きつけて上でツイスト踊りたくさせるという、天才的なまでの偏見コテコテぶりがいかんなく発揮されています。女性同士の愛をポジティブにとらえた百合作品がぐんぐん増えている昨今、古典的な蔑視の数々をここまで無邪気に垂れ流せるというのはある意味、神が与えたもうた才能ですね。小聖とマユ子がいかに情熱的にキスをかわそうと、脇キャラの片想いやSM的な興奮がつぶさに描かれようと、そんなわけで少しも楽しめませんでした。人を選ぶ作品だと思います。