石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『蒼穹のカルマ(7)』(橘公司、富士見書房)感想

蒼穹のカルマ7      (富士見ファンタジア文庫)

蒼穹のカルマ7     (富士見ファンタジア文庫)

破天荒な面白さ。特に槙奈が最高

姪の在紗を溺愛する元騎士・高崎駆真(♀)の活躍を百合百合しく描く暴走ファンタジーの第7巻。破天荒でパワフルで、すばらしく面白かったです。弄られキャラ・鳶一槙奈がとことんかわいそうでかわいい上に、百合部分もばっちり。伏線もきっちり。全身がかゆくなるギャグ部分もたまりません。初登場キャラのキャラ造形もうまいものですし、ついに登場した(?)あの人が8巻でどうなるのかも気になります。

槙奈最高

帯にもある通り、この巻のあらすじは「記憶喪失になった駆真を救うため、槙奈が作家デビュー!?」というもの。別のことばで言い換えるなら、「鳶一槇奈泣き笑い黒歴史劇場」ですね今回は。小説内小説『ダークパラディン伝説』は、「ラノベによるラノベのセルフパロディ」とでもいうべき自虐的傑作で、槙奈でなくとも全身かゆくなって転げ回りたくなること間違いなし。駆真を救うため、己の恥ずかしい過去の公開に耐える槙奈の姿が気の毒やらおかしいやら、そして百合な意味ではどこまでもけなげだわで、楽しませてもらいました。

表紙と口絵の仕掛けもよかったです。表紙の槙奈のひきつり笑顔だけでも笑えるのに、口絵のあのインパクトときたら。この2枚のイラストだけで、7巻の本質がすべて表現され切っていると言っても過言ではありません。

百合部分もばっちり

今回の駆真は記憶喪失のため、お話の実に8割ぐらいは無力化したままです。よって、駆真×在紗の百合百合しさは普段より控えめであるかのように見えます。「それでも面白いからいいや」と読み進めていたんですよ、途中までは。その分、土壇場の展開にはあっと言わされました。愛とかっこよさの中にもこのシリーズらしいおバカさが脈々と流れる、実に心憎いクライマックスでした。

伏線もキャラ立てもよし

1巻以来の謎がいよいよ解かれ始めそうな気配です。長く続いているシリーズなのに引き延ばし感がまるでなく、伏線が着実に回収されているところがいいですね。また出版社社員・言枝をはじめとして、新登場のキャラ勢にはっきりした個性が確立されているところも楽しかったです。口調によるキャラの書き分けというのはマンガやラノベのお約束ですが、このシリーズはそれが特にうまい気がします。語尾だけ変えて終わりではなく、言い回しや論旨のつなぎ方までキャラごとに違うので、「この人が次に何言うのか読んでみたい」とついつい引き込まれてしまうんですよね。

まとめ

笑えて泣けてしっかり百合で、槙奈の羞恥プレイもてんこもりという、すばらしい1冊でした。奔放なストーリーと味わい深いキャラ造形、そして意外なクライマックスと、隙のない面白さを誇るコメディです。おすすめ。