- 作者: いけだたかし
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2011/02/23
- メディア: コミック
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とりあえずひと安心。
女子高生2人のじれったいラブストーリー、第8巻。7巻に「主人公、半笑いで異性愛主義に迎合」てな部分があったので、この8巻を読むのは正直ちょっと怖かったんですよ。が、今回はホモフォビアを「暴力」としてはっきり批判するシークエンスがあり、胸をなでおろしました。レズビアンが性的プレデターでも憐憫の対象でもなく、当たり前にそのへんにいる存在として受け止められている場面もよかったです。純夏と汐の恋も久しぶりに前進している上、脇を固める大人勢も渋く、安心して読める巻でした。
「ただ誰かを好きになったってだけで受ける暴力は!?」
これまで百合/レズビアン漫画を何百冊も読んでレビューしてきましたが、ここまではっきりとホモフォビアを「暴力」であると明言して批判してみせた(pp. 66 - 67)作品は、これが始めてです。嬉しかったです。また、第41話で、「そんなシュミはない」という言葉の残酷さを浮き彫りにしてみせる手際にも脱帽。百合批評ではなく百合漫画でこういう視点が打ち出されるというのは新しいなと思います。
「あ ご ごめんなさい」「何が?」
風間汐と生徒会役員たちの何気ないやりとりに、ぐっときました。汐は同性愛者であることをオープンにしているキャラクタです。ゆえに誤解や中傷には慣れっこで、相手が自分の性的指向のことで不快になっていないかと先回りして気遣うくせまでできてしまっています。でも、この生徒会の、少なくとも副会長の踏木さんにはそんな気遣いは要らないんですね。「私はあなたの理解者よ!」みたいな肩に力の入った(そして往々にして自己陶酔的な)構えを少しも見せず、汐をただの仲間としてナチュラルに受け入れているんですよ、踏木さんは。こういうキャラを出すというのは、昨年10代LGBTの自殺防止のためにクリス・コルファーが動画で喋ったこのメッセージにも通じるものがあると思います。見出しに挙げた「何が?」と聞き返す場面に顕著な、説明台詞に頼らないすっきりした描写もよかったです。
恋も一歩前進
帯の文句通り、純夏の「抑えてた想いがあふれ出す」巻でした。やれやれ、やっとここまで来たか。よかったよかった。いつも通り暗示的なカバー絵も心憎かったですね。2人の位置の高低差が7巻より減り、視線も軽く噛み合い始めているところがポイント。
純夏ってなんだか童貞男子めいたところがあると思うんです。「美人でデカチチのクラスメイトからあからさまに好意を寄せられているのになかなか気づかない/気づいても積極的に行動に出られない/それでいて嫌われるのも怖くて悶々」って、そりゃ一体どこの駄目エロゲの鈍感童貞主人公だよと。そう思って見ると、主人公が行動に出ない理由を「同性同士であること」においていつまでも悶々とさせるのって、ホモフォビアを利用した童貞ロールプレイに思えてしまいます。あんまりそういう状態が続くと読んでて消耗するので、少しでも進展してくれてよかったです。あとがきによると9巻は「いよいよクライマックス」とのことなので、期待しています。
脇の皆さまについて
汐の兄や祖母、砧さん、まゆの父親など、魅力的な大人キャラたちが脇を固めることで、物語の読み応えがいや増しています。百合だからと言って「男なんて/大人なんて汚い!」みたいな閉じた世界を形成するのではなく、むしろ年齢・性別・立場がさまざまに違う人々の中に少女同士のガチ恋愛を配置していくという姿勢が好印象でした。
まとめ
ホモフォビアや、同性愛の“趣味”扱いを批判する部分が組み込まれている上に、レズビアンキャラがごく当たり前に受容される場面もあり、安心して読むことができました。純夏が少しだけヘタレを卒業して行動に出ているところもナイス。脇キャラの配置もみごとで、あとはクライマックスから幕切れまでをどうまとめていくかですね。あと1〜2巻できれいに収束してくれたら嬉しいんですが、さて、どう来るか。